第2話 隣国の花屋、そして出会い

 グリンタフ帝国を追放されたエレナは、傷ついた心とわずかな所持金を抱え、隣国のセリスタン共和国 へとたどり着いた。国境を越えた時、帝国とは違う、自由で活気あるムードを感じた。


「ここが、セリスタン共和国……」


 人々は活気に溢れ、市場では商人たちが元気よく品を売り、道端の子どもたちは笑い声を上げて駆け回っていた。


「グリンタフとは全然違う……」


 大陸に覇権を敷くグリンタフ帝国に比べると、セリスタンは、取るに足りない小国である。しかし、王族や貴族の支配が色濃いグリンタフとは異なり、市民たちが自由に商売をし、のびのびと暮らしているこの国に、エレナは安心感を覚えた。


しかし、所持金はあとわずか。食事もまともに取れず、行く宛てもない。


「どうしよう……」


そんな時、町の一角に 「フローラ」 という小さな花屋を見つけた。


エレナが恐る恐る店を覗くと、店主の優しげな老婦人が声をかけた。


「お嬢さん、何かお探しかい?」


「えっと……私、ここで働かせてもらえませんか?」


エレナは、おずおずと尋ねた。


「ふむ、働きたい? でも、花の手入れは難しいよ」


「できます! 私、植物を育てるのが得意なんです」


エレナの瞳は真剣だった。


店主はしばらく考えた後、ふっと笑った。


「なら、一度やってみな。ダメだったら、その時はその時だ」


「ありがとうございます!」


こうして、エレナは花屋「フローラ」で働くことになった。


 エレナは、持ち前の森聖女としての知識と経験を活かし、花屋の花々を見違えるほど美しく咲かせた。


「すごいねえ! エレナちゃんの手にかかると、花がまるで生きているみたいだよ」


 店主は驚きを隠せなかった。


 町の人々も、彼女の育てた花を求めて店に訪れるようになった。


「この白いバラ、まるで天女の衣みたい…」


「エレナさんが育てた花は、他の花屋の花と全然違うな!」


 エレナは、人々の笑顔を見て、少しずつ心の傷を癒していった。


「花って…こんなに人を幸せにできるんだな…」


 そんなある日、店に一人の男が訪れた。


 セリスタン共和国の将軍、クラウス。


 彼は、共和国を支える軍の指導者であり、政治的な実権も握る厳格な男だった。


「この花は、誰が育てたのか?」


 猛将として国民の畏怖と尊敬を集めるクラウス将軍の突然の来店に、店主は驚きながら、奥で花の手入れをしていたエレナを指差した。


「エレナちゃんですよ。最近働き始めたけど、すごい腕を持っているんです」

  

 クラウスは、ゆっくりとエレナに近づいた。


「君がこの花を?」


「はい」


 エレナは緊張しながらも、まっすぐにクラウスの目を見つめながら答えた。


クラウスはしばらく花を眺めると、言った。


「素晴らしい。まるで、花に魔法が宿っているようだ」


「…ありがとうございます」


 エレナは、照れくさそうに微笑んだ。


 クラウスは気前良くたくさんの花を買って代金を支払い、店を後にした。


 数日後、クラウスが再び花屋を訪れた。


「エレナ、国民議会に来てほしい。君と話し合いたいことがある」


「国民議会…ですか?」


 突然の話に、エレナは驚いた。


「私が国民議会になど、行っていいのですか?」


「君の力を、共和国のために活かしたい」


 クラウスの言葉に、エレナは迷いながらも、興味を抱いた。


「わかりました」


 国民議会に案内されたエレナは、議場に通された。そこには、国の元老や官僚、各界の代表者たちが議員として集まっており、一様に暗い表情だった。


「諸君、紹介しよう。この女性は、フローラの花屋で働くエレナさんだ。そして、その正体は……グリンタフ帝国の元森聖女なのだ」


 議員たちは一斉に驚きの声を上げた。


「グリンタフの森聖女!? そんなはずが…」


「なぜ、そのような方がここに?」


 クラウスは、エレナがグリンタフ帝国を追放された経緯を説明した。そして、彼女が育てた花には森聖力が込められていたことを明かした。


「調査の結果、エレナさんの花には、強い森聖力が宿っていた。これは、グリンタフ帝国の森聖女だったことの証拠だ」


 議員たちは、改めてエレナの花を見つめた。


「なるほど…それで、このように美しい花を育てることができるのですね」


「森聖力を持つなら、もしかして…!」


 クラウスは、真剣な眼差しでエレナに向き直った。


「勝手に皆に正体を明かしたりして済まなかった、エレナ。ここまでしてでも、どうしても君に頼みたいことがあったのだ」


「何でしょう?」


「共和国の緑を司る大魔道機関が、故障している。わが国は帝国のように森聖女がいない。だから、魔術教団の魔術師に大金を払って修理させている。だが、いつ直るか見通しが立たない。このままでは、作物や牧草が枯れ始め、人々の暮らしが危機に瀕するだろう。君に、この大魔道機関の修理を手伝ってほしい」


 エレナは目を見開いた。


「大魔道機関の修理、ですか?」


「やはり、無理か? かつてグリンタフ帝国の森聖女だった君なら、魔術師たちも知らない修理のコツを知っていると思ったのだが……」


 クラウスは、絶望の色もあらわに、肩を落とした。


「君でも無理なら、私も、ここに集まっている議員全員も、毒をあおって命を断つしかない。それくらい切羽詰まった危機なのだ」 


 エレナは、深呼吸した。そして言った。


「一週間あれば、恐らく直せるでしょう。それで間に合うでしょうか」

 

 クラウスはエレナの言葉に驚いて顔を上げ、喜色満面でエレナの手を取った。


「ありがとう、ありがとうエレナ! 君は、命の恩人だ。私と、この場にいる議員全員の、人生を救ったのだ。君がいてくれることを、心から感謝する」


 こうして、エレナはセリスタン共和国の大魔道機関の修理に携わることになった。


 彼女は、再び人々のために力を尽くすことができる喜びをしみじみと感じるのだった。、人生を救ったのだ。君がいてくれることを、心から感謝する」


 こうして、エレナはセリスタン共和国の大魔道機関の修理に携わることになった。


 彼女は、再び人々のために力を尽くすことができる喜びを、しみじみと感じるのだった。

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