フーテン、仕事を探す②
本当に気が進まないが、面接に行った。
フーテンとして毎日を過ごしていると、みるみるうちに金がなくなる。しょうがないので働くことにしたが、いかんせん髪が切らないので書類すら通らない。まあ当たり前だろう。爽やかさから1光年ほど離れた場所にいることは自覚している。気持ちを切り替え次に望むが、やはり書類が通らない。虚しさが風と共に六畳間を通り抜けていく。
減る残高と伸びる髪の毛、そして削られる精神。ある日それらがアルコールを燃料にしてビッグバンを起こした。憂鬱や後悔さえ吹き飛ばしてしまうほど大きなやつだ。消し炭すら残らなかった。目を覚ました僕は、清々しい赤ん坊のような気持ちを味わった。もっとも泣き叫ぶことはしなかったが、泣きそうな時の、あの喉奥のざわめきはいつまでも消えてくれないようだ。
僕は猛然と履歴書を書き始めた。企業にアポを取り、職場見学に出かけ、今までの人生を振り返り、職務経歴書を書いた。僕の人生つまらないなあと時折絶望することもあったが、なんとか心折れずに続けた結果、ある工場の面接まで漕ぎ着けることができた。職種としては簡単なパソコン作業が付随するフォークリフトオペレーターだった。
僕は前職でフォークリフトの経験があったので、まあなんとかなるやろ精神で面接に臨んだ。が、間違いだった。僕がだらだら仕事をしていた7年の間に世間はコロコロと表情を変え、出来たらすごいと言われていた技術が、出来ますよね?というふうに問われた。僕が呆けている間にも時間は確かに過ぎ去って、悲しみと一緒に僕は取り残されていた。僕は努力したくもないから、横に立つ悲しみと顔を見合わせて幼児の頃の思い出に浸るしかなかった。
この面接に受かったかどうかなんて、もう興味はない。金がなくなったらホームレスにでもなればいい。どうせ粗末な体なのだ。失ったところで痛みもかゆみもない。ただ虚しいだけだ。
思えば自己破壊として仕事をやめたのだ。仕事をやめフーテンとなった今、破壊するべきは働かないで朝から酒を飲んでいる僕なのではないか。
昨日まで憎んでいたはずの「自分」が、いつしか羨望の対象となっている。それはなんとも不思議な現象で、飽き性な所は共通しているのだと、苦々しく思う。
ただ、こうも思うのだ。僕は4ヶ月弱フーテン生活をしていた。何を生み出すでもなく、芸術的な才能があったわけでもない。フーテンかぶれのルサンチマンでしかなかったのだ。ただ一人濁った澱のような六畳間に引き篭り続け、毒にも薬にもならない文章を垂れ流していた。
だったらこのままでもいいじゃないか、もっと暗いところへ一緒に潜っていこうじゃないか。そう言って暗がりの向こう側から、見たこともない、しかし懐かしい亡霊が手招きをしているのだ。その亡霊の顔は、泣き笑いする子供の頃の僕に似ていた。
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