あの空

@Ryu-12120126

読切

高台の公園から見える空は、どこまでも澄んで広がっていた。


 「あの空、昔と変わらないね」


 隣に立つミナが、小さく笑いながらそう言った。


 この公園は、僕とミナの思い出の場所だった。小学生の頃、毎日のようにここで遊んだ。夏になると、僕らは競うように駆け上がり、汗を拭いながら寝転んで空を見上げた。雲の形を当てたり、流れる飛行機雲を追いかけたり。


 「覚えてる?あの時のこと」


 ミナが少し遠くを見るような目をして、ぽつりとつぶやいた。


 もちろん覚えている。忘れられるわけがない。


 中学に上がると、僕らは少しずつ違う道を歩み始めた。ミナは陸上部に入り、毎日練習に明け暮れた。僕は帰宅部で、学校が終わるとすぐに家に帰る日々だった。公園で会うことも、空を一緒に見ることも減っていった。


 それでも、高校入試の前日だけは違った。


 「たまには、あの公園に行かない?」


 ミナがそう誘ってくれた。僕らは久しぶりに坂道を登り、肩を並べて空を見た。冬の冷たい風が吹いていたけれど、澄んだ夜空には無数の星が輝いていた。


 「なんか、落ち着くね」


 ミナがそう言って笑った。


 「そうだな」


 あの空の下でなら、どんな未来も大丈夫な気がした。


 それから数年が過ぎ、僕とミナは別々の大学に進んだ。会う機会はどんどん減り、連絡も取らなくなっていった。


 だから、今日こうして久しぶりに公園で会ったことが、なんだか不思議な感じがした。


 「変わらないね、この場所も、空も」


 ミナが懐かしそうに言う。


 「そうだな。でも、俺らは変わったのかな」


 思わずそんなことを口にすると、ミナは少し驚いたような顔をした。


 「どうだろう。でも、こうしてまたここに来たってことは、変わってない部分もあるんじゃない?」


 その言葉に、僕は少しだけ救われた気がした。


 ミナが空を見上げる。僕もつられて同じように空を仰いだ。


 あの頃と同じ、どこまでも広がる青い空。


 変わらないものと、変わっていくもの。


 でもきっと、僕らはまたこうして、時々空を見上げるんだろう。


 そう思えたから、僕はそっと笑った。

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