第2話「数学デート」

「3.141592653587932384626……」


「円周率を数えるリナツちゃん萌え!」


 これのどこに萌え要素あるんだ? こんなの暗記しようと思えば誰でもできるじゃないか?


 ミミカと恋人同士になったばかりの放課後で、私達は喫茶店でパフェを食べ合っていた。


「ところで、ミミカはなんで数学者になりたいわけ?」


「うーん、憧れの人がたまたま数学者だったからとしか言えないかな」


「その人は、ミミカの初恋の人?」


「ふぇ!? ち、違うよ! 憧れと恋愛は全然違うから!」


 ほーん、まぁ良いけど。


 ミミカは私ほど数学に詳しいわけじゃないが、数学は暗記だけじゃなくて、思考能力を磨く事ができる一種のゲームだ。


 私は能力の有無よりも、いかに数学に興味があるかどうかが大切だと思ってる。


 特に、ミミカみたいに、能力は低くても数学を学びたい意欲がある子は初めて見たし、この子となら友達になれる……はずだけど、なんで恋人同士になったの?


「あ、そーだ。リナツちゃん、何かクイズを出してよ。数学クイズ」


「えー? まぁいいけど、1、16、1、25、81、4。これ何の数列でしょうか?」


「………?」


 なんつー間抜けな顔してんだ。宇宙に放り出された猫みたいになってる。


 なんか可愛いな。


「むむむ、数列かぁ。フィボナッチ数列……なわけないし……えーと、何だろう?」


 あれ? なんかこうして問題を出して悩んでくれる女の子なんて生まれて初めて見たな。


 何だろうか、この高揚感は?


「ぐへー、正解教えてー」


 私の出した問題に答えられなかったミミカが机の上でうずくまる姿が、なんか猫みたいだな。


 なんだっけか? 可愛い子には意地悪したくなるみたいな?


「ふふふ、正解は……教えなーい」


「ひっどーい!」


「冗談冗談、ミミカが可愛かったから意地悪しただけ」


「〜〜〜〜っ!!」


 ……ミミカの顔が真っ赤になった事で悟った。


 すっげぇ恥ずかしい事しちゃった気分。


「むー、意地悪するリナツちゃんは、こうだ!」


「むぐぐ」


 ミミカにパフェの乗ったスプーンを口の中に押し込まれた。


 よく分からない感情を感じる中、正解を言うと1、16、1、25、81、4とは、円周率の3.141592の「141592」を二乗しただけなんだよね。

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