怪奇!快楽被◯人鬼怪人紅登場
鴻 黑挐(おおとり くろな)
第1話
ラスベガス。
ゴミ袋の山の中。男が一人、倒れている。トレンチコートと中折れ帽を身につけた、アジア系の男だ。
腹部から
この男は
「や……。
そして、その男の前で血まみれのサバイバルナイフを持って立ち尽くす、黒髪を後ろで括った青年。
彼は、ここラスベガスのカジノでディーラーを勤める
「なのに何で……。アホか、オレ‼︎」
逮捕、解雇、ビザ取り消し……。この殺人が露見すれば、蔵人は全てを失うことになる。
「と、とにかく……。死体を捨てる?ああ捨てるならナイフか?いや、その前に着替え……」
顔面
その瞬間だった。
「あー、イテテ」
蔵人は目を疑った。先ほど刺し殺したはずの紅が、まばたきをして、あまつさえ顔をしかめてみせたからだ。
「な、なんでっ」
この時、蔵人の頭には二つの思考が同居していた。内訳としては『絶対に致命傷だったはずなのに、何で生きてるんだ⁉︎』が三割、『このまま何事もなかったかのようにコイツが帰ってくれればオレは捕まんないじゃん、ヤッピー』が七割である。
「絶対死んでたはずだろ⁉︎」
「うん。君に殺されたね」
紅が服をはだけて蔵人に腹を見せる。サバイバルナイフで深々とつけられた刺し傷がみるみる塞がっていく。
「色々あってね。死んでも生き返るんだ、俺」
あっけらかんと言い放つ紅とは対照的に、蔵人の顔は真っ白に青ざめている。
「ひっ……!」
「なんだよ、その生娘みたいな悲鳴は。君が刺した傷だろ?」
「やっ、やめろ、見せるな!」
まだ塞がりきらない腹の傷を見せつけられ、蔵人は泣きそうな顔で悲鳴を上げた。
「ところで……」
フリーズしている蔵人の手を紅が握る。
「さっきの、すっっごいヨかった……‼︎」
「……は?」
彼が頬を
「特にナイフを刺した後に半回転させたの!あれすごかった、絶対やってたでしょ⁉︎」
「やってるわけあるか!これが初めてだブッ殺すぞ‼︎」
「え、もう一回殺してくれるの⁉︎ヤッター‼︎」
「いや、ちが……。ああもう!」
耐えかねた蔵人がその場から逃走しようとするが、紅がそれを阻止する。
「いや、本当に過去イチ気持ち良かったんだよ……!今まで数えきれないくらい死んできたけど、君の殺し方が一番なんだ。才能あるよ」
「いらねーよそんな才能‼︎」
「俺は欲しいんだ」
口論の最中、蔵人は紅の股間が主張を強めているのを
「蛇目蔵人……。俺は、君の才能が埋もれるのが我慢ならない……!」
紅がナイフを握る蔵人の手を手繰り寄せ、自分の腹に突き刺す。
「ひっ……!」
蔵人がサッと青ざめる。
「蛇に呑まれたカエルが射精する理由を知っているかい?絞首刑にされた死刑囚が勃起する理由は?」
紅が蔵人の手ごとナイフを回転させる。金属製の無骨な獲物が臓物をかき回す。
「学者先生は生存本能だって言うけど……。俺は違うと知っている」
ナイフを腹から胸に引き上げる。ズタズタにされた臓物が湯気を立てて蔵人の手にこぼれ落ちる。
「気持ちイイんだよ。文字通り、死ぬほど!
蔵人が
「だから蔵人、俺と……」
ふと紅が気がつくと、サバイバルナイフだけが置き去りになっている。
「き……、キッッッショ‼︎」
蔵人は紅の手を振り解き、そのまま脇目も降らず全力疾走で走り去っていた。
「あ……、蔵人!」
それを紅が追いかける。恐ろしいことに、こぼれ落ちた臓物と腹の傷はすでに
「待ってくれー!」
「誰が待つか‼︎この変態‼︎」
夜のラスベガスを二人が駆け抜ける。
「俺を……俺を殺してくれーっ‼︎」
怪奇!快楽被◯人鬼怪人紅登場 鴻 黑挐(おおとり くろな) @O-torikurona
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