第11話 最後のイタズラ? 決行
噂が加速する一方、柚葉が掲示板とどう付き合うか悩んでいるうちに、ある“過激な安価”が投下された。
――「大胆な行動で兄を確実に落とせ。刺激的なイタズラをやってみろ」
下駄箱に派手な仕掛けを忍ばせる、机の中に意味深なメモを入れる……など、どれもやりすぎ感が否めないものばかり。柚葉は何度も「やめよう」と心が揺れたが、その一方で「これが最後かもしれない」という思いに駆られてしまったらしい。
そして週明けの朝、俺が下駄箱を開けようとすると、突然大量の小さなハート形の紙片がばら撒かれた。まるでラブレターのように赤やピンクの紙が舞い散り、周囲のクラスメイトが「うわ、何だ!?」と驚きの声をあげる。
その中に混じって、一枚だけ大きめの紙が落ちた。それには、“大好き”と大きく書かれている。あまりにも露骨で、見られたら誤解を受けそうだ。周囲の男子が「おいおい、何の告白だよ!?」と囃し立てる中、俺は必死に片付けようとした。
しかし、これはまだ序の口だった。昼休み、教室に戻ると、机の中にも仕掛けがあった。飛び出す玩具が仕込まれていて、カタカタと鳴りながら机上に飛び出す奇妙な人形。クラスメイトは悲鳴と笑い声を上げ、俺は再び注目の的になる。
正直、恥ずかしいし迷惑でもあるが、すぐに柚葉の仕業だと察した。昨夜、彼女は「最後の勝負」とつぶやいていたし、安価の内容を断片的に読んでいたからだ。だけど、これは明らかにやりすぎだろう――。
さらに放課後、昇降口へ行くと、俺の靴が見当たらない。代わりに真新しいスニーカーが置かれており、その靴紐に小さなメッセージカードがぶら下がっていた。「お兄ちゃんにぴったりだと思ったから用意しました」という文言は、完全に柚葉の筆跡に違いない。周囲の野次馬が興味津々に覗き込み、騒ぎはますます大きくなる。
俺は堪りかねて、校舎裏で柚葉を呼び止めた。彼女はいつものクールな顔をしていたが、その瞳には動揺が滲んでいる。
「……お兄ちゃん、どうだった? 驚いた?」
「驚いたじゃ済まないだろ! 下駄箱にあんな仕掛けとか、クラスで変に囃し立てられたし……どうしてこんな無茶するんだ!」
自分でも声が荒らげているのが分かる。でも、こんな形で注目を集めるのはたまったもんじゃない。以前からの噂まで合わさって「やっぱりあの兄妹はおかしい」と思われるのは確実だ。
柚葉は唇を噛み、弱々しい声でつぶやく。
「……ごめん。でも、これが最後だと思ったら、やるしかない気がして……」
「どうして“やるしかない”なんて思うんだよ! 迷惑かかるかもしれないって、考えなかったのか?」
「……うん。わかってた。わかってたけど、もう……」
彼女の目が潤み、声が震える。クールな妹がここまで追い詰められているとは。俺は怒りを抑えきれずに言葉を重ねる。
「俺は……お前がそこまでしてくるなんて知らなかった。何か抱えてるなら、ちゃんと話してくれたらいいのに……」
「……話したら、きっとお兄ちゃん困るから……」
柚葉はその場にへたり込みそうになり、俺は慌てて腕を支える。だが、あまりの感情のぶつかり合いに、俺もどうしていいかわからない。ただ、これだけは言わなきゃいけないと思う。
「……こんなやり方じゃ、本当に二人の関係が壊れちまうかもしれないんだぞ」
俺がそう告げた瞬間、柚葉の目尻から大粒の涙がこぼれ落ちる。クールな仮面が外れ、完全に取り乱した表情だ。
「ごめん……ごめんなさい……!」
か細い声で泣きそうになりながら、柚葉は俯く。いつもは強がってみせる彼女の素顔を見た気がして、俺の胸も軋むように痛い。それでも、今日はどうやっても互いの感情が交差してしまいそうで、言葉が出てこない。
ちょっとした安価から始まった“最後のイタズラ”は、俺たちの間に大きな亀裂を生みそうだった。柚葉の涙に手を伸ばす気力もないまま、俺はその場で言葉を失っていた。彼女は震える声で「……もういい、もうやめるから」と繰り返しているが、果たしてそれで全てが解決するのか――答えが見えずに、ただ時間だけが虚しく過ぎていった。
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