chapter:27――完成! 無限鞄
「さてと、夕飯も食べてお腹いっぱいになった事だし、早速今後の旅に必要な物を作ると致しますか!」
そして時刻も移り変わり、夜の帳が降り切った頃、
俺はレイクとセネルさんの泊まる部屋で、異世界転生物の物語でよく登場する在る物の制作に取り掛かる。
(ちなみにセネルさんは、夕飯のバイキングで食べまくり、宿の料理人を泣かせたのは言うまでもない)
「ヒサシ、これから作る物って何なんだ? 何か物を入れる為の道具っぽいけどさ」
「そういえば、空間を歪曲させる系統の道具とかを買ってましたね」
「フフフー。それは完成してからのお楽しみってやつで、まぁ何時もの通り作る様子を見ておいてくれよ」
疑問符を浮かべるレイクとセネルさんに言って、俺はネックレス状にしていた箱を元の形へと戻す。
そして箱の蓋を入れて、まず最初に入れるのはぼったくりで売り付けられそうになるも、交渉して安値で買い叩いた鞄、
次に入れるのは、部屋に配達してもらった見た目よりも多くの物が入るという魔法の収納箱を中くらいの物と大きい物の二つ、
そして最後にセネルさんに見つけてもらった、空間湾曲の魔玉。
それらを入れて蓋を閉めて、俺は頭の中にあるイメージを箱に送り込む。箱は一瞬、沈黙したが、すぐに文様を白く明滅し始めた。
「いったい何が出来上がるんだろうな?」
「そうですねぇ、空間に作用する系統の魔法道具とか買ってましたし、恐らくは物がたくさん入る鞄?」
疑問符を浮かべるレイクに対し、セネルさんはかなり良い線を行った答えを言う。
俺は一瞬、ドキリとするが何とかそれを表情に出さず、箱の中の物の完成を待つ。
やがて中の物の再構築を終えた箱は、文様の光を青に変えてこちらへ完成を知らせてきた。
はてさて、うまく出来あがったかな……? 俺は期待と不安を入り混じらせつつ、箱の蓋を開け、中の物を取り出す。
出てきたそれは、一見、屋台で買った鞄を新調しただけにしか見えない皮のボストンバッグの様な物であった。
「何だぁ、ヒサシ、出来上がったのは只の鞄じゃないか」
「いえ、レイクさん、
レイクは期待外れといった顔で、セネルさんは
そんな二人(特にレイク)に対して、俺は胸を張って言う。
「こいつは只の鞄じゃないぞ。レイク、お前の武器の超大型荷電式剣鉈をこの鞄に入れてみなよ」
「はぁ? いやどう考えてもこの鞄に入りそうにないだろ? まぁ言われた以上はやってみるけどさぁ」
言われたレイクは半信半疑で尻尾をくねらせながら、口を開けている鞄の中へ超大型荷電式剣鉈を入れ始める、
すると普通ならば明らかに入らなさそうな巨大な剣鉈が、魔法の様に鞄の中へするすると入っていく。
「えっ、あれ? なんでこんな鞄の中にオレの剣鉈が入っていくんだ!? ってうわっ……」
あまりにも信じられない光景にレイクは目を白黒させて、その拍子にうっかり体勢を崩し剣鉈もろとも鞄の中へ消えた。
あっ、やば……こういう事態は想定してなかった。俺は慌てて鞄の中を見るも、中は真っ暗で何も見えない状態である。
そして鞄の中から響いてくるのは、ひどく困惑したレイクの悲鳴のような声。
『うわー、何だここー! 中がぐにゃぐにゃしてふわふわして良く分かんねぇ……!?』
「こりゃいかん……セネルさん、ちょっとレイクを救い出しに行くから、良いって言ったら鞄の中に手を入れて!」
「はい、わかりました……! ヒサシさんもお気をつけて」
セネルさんに一言頼むと、俺は躊躇いもなく鞄の中へと入る。
高速のエレベーターに乗った時の様なふわっとした感覚の後、俺の目の前に広がったのは異空間であった。
その空間は空も大地もなく、風景は七色に蠢く光によって染められており、それでいて無限に広がっている。
「えっと、俺がこの鞄を作る時にイメージした通りだと……居た!」
俺はその空間を泳ぐ様に進みつつ、レイクの事を頭に思い浮かべると、そのレイクの姿が見えだす。
巨大な剣鉈を片手に持った彼女は、空間を泳ぐ様に進む俺に気が付くと、目を見開いて驚きつつ言ってくる。
「あっ、ヒサシぃ!? お前もこの中に入ってきたのかよ、どうやったら出られるかわからないのにどうするつもりなんだ??」
「レイク、この鞄に関して説明不足だった俺が悪かった! セネルさん、良いよ!」
驚いているレイクの手をしっかりと掴むと、彼女は肉球の手でぎゅっと握り返してくる。
その心地よさを感じながらも、俺は鞄の外のセネルさんへ許可を出すと、空間に光の割れ目が出て、其処から彼女の手がぬっと出てきた。
俺はもう片方の手でセネルさんの手を掴み、外の彼女へ指示を出す。
「セネルさん、掴んだ俺の手を思いっきり引っ張って!」
『はい、わかりました! ええぃっ!!』
グイっと引っ張られる感覚と共に、視界が光が包まれる感覚と共に俺とレイクはセネルさんの手によって鞄の中から脱出を果たす。
ふぅ、一時はどうなるかと思ったが、セネルさんも一緒にいてよかったや……。
そうじゃなければ俺はレイクともども鞄の中の異空間で一生を過ごす羽目になっていた所だ。これは改良しないと行けないな。
「うわーん、あんなぐにゃぐにゃな空間、もう二度と入りたくなーい!」
「あー、怖い目にあわせて済まなかったなレイク、もう二度とこういう事にならないように改良しておくから」
俺は涙目で怯えているレイクに対して、彼女の頭を優しく撫でながら言う。
流石にこれは俺が悪かったな。今度から使う前にはしっかりと説明するようにしておこう……。
「ヒサシさん、この鞄はやはり私の思っていた通り……」
「ああ、色々な物を際限なく入れられる上にその重さも感じさせない
「オレ、あの鞄の中の景色がトラウマになりそう……」
レイクが涙目で呟く。俺はそんな彼女が落ち着くまで背中の毛並みを撫でてあげた後、
早速、
蓋を閉めて新たなイメージを箱へ送る。それを受け取った箱は文様を白く明滅させて、
そして一分もしない内に改良が終わり、箱の文様の光が青に変わったので蓋を開け、改良された
「前と見た目が変わってない様に見えるけど……大丈夫なのか、ヒサシ」
「ああ、俺のイメージ通りなら、上手く行く筈だ。よっと!」
不安げにこちらを見るレイクに対し、俺は彼女を安心させる為、鞄を開いて自らその中へと入りこむ。
先程と同じく、ふわっとした感覚と共に、俺は異空間へと入り込む。
俺の目に入ったのは、
だが、一つだけ違う事がある……それは『現実の世界に出たい』と念じる事。
その瞬間、光の割れ目が俺の目の前に広がり、俺は躊躇いもなくその光の割れ目へ手を差し入れる。
「よっと……うん、これでうっかり中に入っても出られるようになった、と」
「おお、すげぇ! その鞄、出入りする事が出来る様になったのか!?」
「相変わらずヒサシさん、凄い物を作りますね……!」
鞄の口からひょっこりと上半身を出した俺に対し、レイクとセネルさんが賞賛の言葉を投げてくれる。
俺はそれに対して心の中で鼻高々となりながら、鞄から完全に出て部屋の床へと降り立つ。
「それでヒサシ、その鞄の中から出る時はどうすればいいんだ?」
「ああ、簡単だよ、現実の世界に出たいって念じるだけで外への出口が開いて、其処から出られる様になるんだ」
「……なんだか、その鞄、かくれんぼとかに使うのにももってこいですね」
セネルさんは苦笑しながら、俺の作った
ふむ、確かにこの鞄の中に隠れれば、鞄の機能を知らない者からすれば、中の人間を探し出すのはまず不可能だろう。
ただ、セネルさんの様に
まぁ、買い物した時に会った魔法道具屋の爺さん曰く、
俺はこの
その鞄がどんな風に使えるかを実演する為に、再び鞄の口を開き、今度はレイクと共に入って行く。
目的は一つ、鞄の中の世界で味わったレイクのトラウマを取り払う為だ。
そして
「えっと、こう念じればいいんだよな? 『現実の世界に出たい!』」
レイクが念じると共に、光の割れ目が彼女の前に広がる。
そして恐る恐るその光の割れ目へレイクが手を伸ばすと、彼女の身体が光の割れ目へ入っていく。
『うおおお、すげぇ、外に出られた!! これでうっかり入っても怖い目に合わずに済むぜ!』
鞄の外からのレイクの喜びの声と共に、光の割れ目から鞄の中へとレイクが再び飛び込んでくる。
そして彼女は即座に俺の背中へ回り込み、猫がやるそれの様に体を擦り付けてくる。
まったく、どうやらレイクは
俺は尻尾を上機嫌に立てて揺らし嬉しそうにする彼女に対し苦笑しつつ、次の実演に移る……。
その後、セネルさんも俺と共に
「いやぁ、ヒサシはすごい物作ってくれたな、これで重たい物とかかさばる物とかで苦労する事がなくなったや」
「そうですねぇ、力の強いレイクさんならともかく、私は重たい物は苦手ですから、この鞄があれば大分助かりますね」
「まぁ、最初にうっかりレイクがうっかり
暫く経って、
あの一件はレイクにとってはかなりのトラウマになってしまったみたいだが、俺としては貴重な経験だったと思う。
というか、この世界に転生してからという物の、色々な魔法やスキルを見てだいぶ慣れてしまった感があるが、
やはりこういう非現実的な出来事が起こると、ああ、やっぱり異世界に来たんだなって実感するなぁ……。
「よし、早速オレ達の荷物とか色々入れようぜ! 金貨の袋が地味に重くて困ってたんだよ」
「レイクさん、その金貨の袋ってどれくらい入ってるんですか?」
「えっと、だいたい20アメル公用金貨が100枚と1アメル公用金貨が数えきれない位かな」
「……それは重くて困るのも無理もないですね……」
レイクの言葉に、セネルさんは思わず苦笑する。
20アメル公用金貨が10枚ほど入った財布でもずっしりくる位の重さなのだ、
しかもそれが100枚も入っている上に、1アメル公用金貨が沢山入ってるとなると、相当な重さとなる。
それはレイクの様な獣人でも困る位の重さなのである、俺だったら多分数時間もしない内に足腰が悲鳴を上げる事となるだろう
俺はそんな事を思いつつ、
そして俺の意図を汲み取った二人はそれぞれ自分の荷物入れを手にし、嵩張る物や重たい物を中へと放り入れていく。
「なぁ、ヒサシ、入れた物を取り出したい時はどうすればいいんだ?」
「ああ、その物を頭に思い浮かべつつ、鞄の中に手を突っ込めば自然と手に収まってるよ」
「おおっ、本当だ! 頭に思い浮かべただけで取り出せるなんて、探す手間が省けるな」
レイクは尻尾を楽しげに揺らしつつ、自分の荷物入れから入れた物を色々と取り出しては入れてを繰り返す。
俺もセネルさんもそんな彼女の楽しそうな様子に笑みを浮かべながら、それぞれの荷物を
暫く経って、俺達はそれぞれの持っていた重たい物や嵩張る物などの荷物を
残ったのは小さなポーチに入る程度の失くしたら困る物にすぐに出さないといけない物、
例えばギルドカードや多少の金銭にエチケット用の品々、これくらいだ。
「あれだけあった荷物が全部この
「特に着替えの衣服とかキャンプ用の道具とか嵩張る物や重たい物を入れましたからね……これからの旅が楽になりそうです」
レイクは自らの大きな荷物を仕舞い込んだ無限鞄《インフィニティバッグをポンポンと叩いてその便利さを確かめ、
セネルさんは大量の荷物を簡単に納め切った
そんな二人を見て俺は微笑みながら、
今までの鞄で重い物を持っていた後だと、
これなら嵩張る物や重たい物に煩わされる事無く旅をする事が出来るだろう……っと、注意事項も伝えておかないと。
「言っておくけど、この
「ってことは、誰かが入ってる時に口の留め金を閉じたら、中の誰かが外に出たいって念じても出られないって事か?」
「ああ、そういう事だ。あと他の人間に悪用されない様に、留め金には鍵と同じ機能があって、合言葉を考えながらじゃないと留め金は外せない」
「その留め金を外す為の合言葉とは……?」
セネルさんの質問に対して、俺はちょっとだけ勿体ぶった感じに、わざとらしく咳ばらいをする。
この
だからこそその安全性と悪用されない為の仕組みをしっかりと伝えておかないとな……そして、俺はその合言葉を二人に伝えた。
「合言葉は『俺達のパーティは一つ』だ!」
しかし、俺が自信満々に言った言葉に対して、レイクもセネルさんも生暖かい目を向けるだけで、
俺は内心、
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