chapter:19――柔軟なる発想の覚醒


 調査と作戦会議を終えた俺たちは村長の家に戻り、ファリアさんとソルキン村の皆に作戦を伝える事にした。

村長の家にはファリアさんの他に、村の人々が一堂に会し、真剣な面持ちで耳を傾けている

俺の話を真剣に聞いた後、暫くして皆が顔を俯かせたり頭を抱えたりしていたが、ファリアさんが真剣な表情で口を開く。


「どの道、このままいけば我々は村を捨てなければならなくなる。だが、彼らは我々の窮状を見て、ヴァリアウスに一矢を報いようと作戦を立てている。そんな彼らに私は出来る限り協力したい、皆はどうだ?」

「私も村長の考えに賛成です、只やられてばかりで村を捨てるとかは納得がいきません、炊き出しなりなんなり協力します!」

「俺も賛成です。何もできずに長年住んでいた村を捨てるなんてできません、何か必要なものがあれば用意します」

「私も!」

「俺も!」


 ファリアさんの問い掛けに、村人の中から若者のエルフが一人前に出てきて、それを皮切りに他の皆も次々と同意の言葉を口にしていく。

その様子を見たファリアさんは、嬉しそうに頷いて見せると、俺達三人へ向き直ると口を開く。


「こういう訳で、村の者達は冒険者殿の作戦に同意してくれている、後は君たちが出来る事をして欲しい」

「ああ、勿論だとも、その代わりちょっと協力してほしい事があるんだ」

「協力……? 我々に出来る事であれば何なりとしますが、その協力とは何でしょうか?」


 俺の言った協力の言葉に、ファリアさんは少し首を傾げる。

そんなファリアさんに対して、俺は自分の求めている用件を伝える


「この村が所有する、出来ればヴァリアウスが遠見の魔術で見れない位置の広い土地を貸してほしいんだ、出来れば3デール以上で」

「はぁ、確か……昔に畑にしようとするも、土の質が悪く断念した土地がありましたが……其処を使って何をするつもりなのでしょうか?」

「ちょいと、其処で練習をしたいんだ」


 暫く経って、俺とレイクとセネルさんは、村が所有していた広い土地へとやって来た。

見た感じ、かつて畑にしようと開墾されたその土地は、イネ科の植物みたいな草こそ生えてはいるが、

邪魔になりそうな高い草や木などは生えてはおらず、射撃練習をするのには最適の場所だと言える。

早速、俺は箱を使ってヴァリアウスの頭部に見立てた鉄製の標的を作り、土地の一番端へと設置する。

その後ろには、弾が外れた際に何処へ逸れたかを確認する為のボードを、箱を使って制作した複数の板を使い村の皆に協力して設置してもらった。

そして、その標的の対抗側、丁度標的から3km離れた位置でアンツィオ20mm対物ライフルを組み立て、準備を行う。

その後に箱で専用の20mm弾を多数作り、『強化外骨格』も取り出して体に装着し、大方の練習の準備を完了させる。

準備の手伝いを終えたレイクが、俺の一連の作業に対して口を開いた。


「ひょっとしてヒサシの言う練習ってのは、3デール先からあの標的を狙い撃つのか?」

「ああ、その通りだよ、俺の元の世界の高名なスナイパーも、標的に命中させる秘訣は「練習だ」と言っていたからな」


 そう、今回の作戦の要はヴァリアウスに気付かれない様に接近し、かつ狙撃ポイントから正確に標的を撃ち抜く事だ。

その為には先ず俺が撃った弾が3km先にある標的に精確に命中する精度が必要であり、その為の訓練をこれから行うのだ。

因みにレイクとセネルさんは箱を使って作った双眼鏡で、少し離れた所に設置した的を見ている。

アンツィオ20mm対物ライフルに装着した、サバイバルゲームではまず使わない様な超高倍率スコープを慎重に操作し

スコープ越しに見える、土の地面から生えた標的へゆっくりと狙いを向けながら、俺は一つ深呼吸をする。

これから行う射撃は、俺の狙撃の技量と元の世界での知識が試される場であり、一つのミスも許されない。

俺はグリップを握った手に汗がにじみ出るのを感じながら、対物ライフルの引き金を引く


――ズドァァンッ!――


耳をつんざく様な発砲音と共に凄まじい衝撃が銃床を通じて、俺の両手に襲い掛かる。

だが、『強化外骨格』が反動の衝撃を受け止める事で、身体に対する負担はそんなにかからない。

スコープを動かして標的の方を見てみると、弾は全く当たってはおらず、標的の1m横のボードに穴をあけていた。

ちっ、やっぱり3km先の標的に当てるのは無茶があるか、そう思いつつ俺はコッキングレバーを操作して次弾を装填し、

風向きや重力の影響などを計算しつつ、スコープを再調整し再び的の上あたりを狙い、意識を集中して引き金を引いた。


――ズドァァァンッ!――


 再び耳をつんざく様な発砲音が響き渡ると、放たれた弾丸は標的の僅か手前に着弾し、盛大な土煙を上げる様子がスコープ越しに見えた。

やっぱりそう簡単に行くわけがないよな、と俺は心の中で悪態を吐きつつ、コッキングレバーを操作して次弾を装填する。

しかし、こんな事で挫ける訳には行かない、例えどれだけの困難があろうともだ……そう考えながら、再びスコープの調整に入る。


『なぁ、ヒサシ、根を詰めるのは良くねぇぜ? 『強化外骨格』を付けていても結構反動が来ているんだろ?』


 頭に着けているインカム越しに、心配げなレイクの声が聞こえる。しかし、俺はすぐにインカム越しに返事をした。


「それでも、しっかりと練習して、本番で一発で決めなきゃならないんだ、今は黙って見ていてくれ」


 そう、これからの俺の行動には、ソルキン村の人々の運命を左右する大事な役割が掛かっているんだ。

だったら、練習だろうと何だろうと俺は慎重に慎重を重ねてやりたいのだ。

再び計算をやり直してスコープを調整、今度は標的からわずか数ミリ動かして照準の位置を変えると

風向きや重力の影響を計算して標的へと狙いを定め、俺は引き金を引いた。


――ズドァァンッ!――


 再び耳をつんざく様な発砲音が鳴り響くと、放たれた弾丸は目標の僅か左横を通過して後ろのボードに穴をあけた。

駄目か、いいや、諦めちゃ駄目だ。俺は心を発奮させつつ、傍に置いてある20mm弾を手に取り、

アンツィオ20mm対物ライフルの弾倉へと詰め込み、スコープを調整しなおし、再び狙撃の練習を続けた……


『おい、ヒサシ。もう良いんじゃないのか? それ以上撃ち続けたら流石に不味いぞ?』


 それから、何度も撃ち続け、ボードに何個もの穴が開き、20mm弾の薬莢が俺の周りに十数個転がった頃。

流石に俺の様子が心配になってきたレイクがインカム越しに声をかけてくる

ふと見れば、装着している『強化外骨格』の状況を知らせる左腕のモニターに警告を示す表示が幾つも出ており、

銃のグリップを持つ右腕全体からもモーターが異音を上げ、金属が軋む音が聞こえ始めており、警告表示は更に増え続けている。

これ以上やり続けたら『強化外骨格』の右腕が駄目になるな、俺はそう思いつつ、レイクに返事をした。


「大丈夫だ、箱を使って弾薬も新しい『強化外骨格』も作れば何度でもできる」

『オレが言ってるのはそうじゃねぇよ、さっきからずっと集中しっぱなしのヒサシの心を心配してるんだ!』

「俺の心? 別に俺は平気だが」

『嘘を吐け! 3デール《3km》先の標的に当てる為に、何時間もぶっ通しで練習し続けるなんて、普通じゃ考えられねぇよ!

いい加減止めねぇとお前、心の方が潰れて練習どころじゃなくなるぞ!』


 レイクが言うのも最もだ、俺は3km先から標的に当てる為に何度も射撃を繰り返し、次第にコツはつかめてはいる。

と言っても、それでも完璧な命中は出来てはおらず、一番近くて標的のすぐ傍を掠めていったくらいしか出来ていない。

『練習を行ったにも拘らず命中出来ていない』その事実が、少しずつ俺の心を蝕んでいき、いつこの集中力が切れてもおかしくはない。

だが、だからと言って俺は止める訳にはいかないんだ……そう考えながら俺は次弾を装填し、再び狙いを定めようとしたその時だった。


――もう止めた方がいい。それ以上の練習は君の心の負担が大きすぎる――


 唐突に、以前に聞いた何者かの声が頭の中に響き渡り、俺は思わず手を止める。

そして、その声の主は俺に対して更に言葉を投げかけた。


――練習は確かに大事だ。だが肝心要の君の心が潰れてしまっては、元も子もないぞ――


 その声の主は、まるで俺の心を見透かすかの様な声色で言葉をかける。

俺はその誰かの声に対して少し苛立ちを感じつつも、平静を保ちながら言葉を返す。


「その肝心の一発を当てる為に練習をやっているんだ、頼むから邪魔しないでくれ」


 俺の言葉が通じたのか、声が止んだ――かのように思えた。


――仕方ない、こういう手段は取りたくないが――


 その声が響いた瞬間、俺の視界がまるで無理やり電源を抜いたパソコンの画面みたいに真っ暗になった。

そして、薄れていく意識の中で俺の耳に、レイクとセネルさんが俺を呼ぶ声が微かに聞こえた気がした……。


 ……気が付くと、俺は懐かしい場所にいた。

其処は転生する直前――つまり元の世界で事故死するまで使っていたトラックの運転台。

仕事で荷物を運ぶ時、運送中の休憩で飯を食う時、そしてパーキングエリアで寝泊まりする時、俺はずっと其処にいた

ひょっとしたら、自分の家にいる時間よりも、この物言わぬ相棒の運転席に居る時間の方が長かったかもしれない。

しかし、あんな事故を起こしてしまった所為で、俺と運命を共にさせちまって悪かったなと思う。

そんな五年来の相棒であるトラックのハンドルを握り、俺はアクセルとブレーキを調整しながら何処かへと向かって走っている所であった。

……ふと、今までの異世界での出来事は、一瞬寝た際の、それこそ胡蝶の夢の様な物だったかと思った。


 ――しかし、トラックの車窓を見て、すぐにそれは違うと気付いた。

走っている道路は地平線まで続く程の一直線で、その道路の両脇は地平線の何処までも続く青々とした草の平原。

空は雲一つ青く澄んでいるが、不思議な事にその空に太陽は浮かんではいない、何処までも非現実的な世界。


「ここは何処だ……?」

『ここは君の心象風景だ。君の記憶の中にある光景を、私の力で再現した物だ』


 俺が漏らした疑問に答える様に、声は隣の助手席から聞こえた、

俺は横目で助手席のそいつの姿を見ようとするも、色をごちゃまぜにした様なぼやけた影をしていて判然としない。

しかし、俺はその影の声を何処かで聞いた事があった。そして、その声の主が誰かも知っている。


「お前は……」

『私は、君があの世界に来た時から傍にいる、そして常に君と共に歩み、そして常に君を助けていた』


 その影は、俺の質問に答える様に、再び自身の事を告げる。

俺はその影の正体がわかる様な気がするが、何故かそこから先の思考がブロックされた様に働かない。


『しかし、まさかこうなるとは思ってなかったな、転生して一か月もしない内に伝説龍エンシェントドラゴンを相手取るとは……まぁ、挑発したのは私の方だがね』

「え、って事はお前が俺の体を動かして賭けに持ち込んだのかよ」

『その通りだ。だが、だからと言って心を潰すような練習をするというのは、私としてもあまり推奨できない事だ』

「…………」


 その影は俺にそう告げると、俺は思わず口を閉じる。

その影が言う事は正論だ。確かにあの時の俺は練習をやり過ぎて心がすり減っていた、それは間違いないだろう。


 だが……と俺は思う。

俺がやらなきゃ誰がやるって言うんだ? 俺以外にあのヴァリアウスに対抗できる奴なんかいないだろ? それに、

もし失敗したらソルキン村の皆は村を捨てざる得なくなるんだ、だから他に方法は無かったんだ!

そう心の中で叫ぶも、俺の口からその言葉が出る事は無く、影は更に言葉をかける


『しかし、落ち込む事は無い。君には唯一無二の武器がある、何よりも負けない武器が』

「何だよ、その武器ってのは……」

『それは君の持つ発想力だ、様々な状況を乗り越える為の君の持つ無限の「発想力」は、どんな武器よりも強し。それは事実だ』

「俺の……発想力……?」

『そう、そして私には君のその発想力の助けになれる力がある、発想せよ、山中久志。私がそれを力に変えてやる』


 影がそう告げると、その身体から七色に輝く粒が放出されてゆき、俺の身体の中へ吸い込まれていく。

その瞬間、俺の頭の中に、今までの知識の中の現実の武器道具だけでなく、今までの記憶にある、現実には存在しえない様々な物が思い浮かぶ。

ああ、そうだ、俺は捉われていた、今まで箱で作ったのは現実に存在していた常識の範疇の武器や道具ばかりだった。

だから俺は常識に捉われた武器で苦戦していたのだ、だが今ならば、その常識から逸脱した発想が出来る気がする。

この影は、俺の発想を力に変える事が出来ると言った。そしてそれは事実だった。

俺の中で、今までにない架空の武器や道具の数々が、まるでパズルのピースが嵌まる様に次々と組み合わさっていく感覚。

影はそれを見て取ったのか、嬉しそうに笑いながら言う。


『フフ、どうやらやっと君の発想力が力となり得る時が来る様だね』

「ああ、今なら俺の発想力があれば、何でも出来る気がする」

『その意気だよ山中久志。私は傍から応援するとしよう』

「おい、所でお前は一体――」


……サシ……ヒサシ……

……さん……ヒサシさん……


 俺がその影に問いかけようとした瞬間、俺の耳に聞き慣れた声が響いてくる。

それがレイクとセネルさんの声だと気付いた時、何処か影は嬉しそうに笑って見せると。


『さぁ、君の目覚めを待つ者が待っている、そろそろ戻るべきだ……また会える時を待っているよ』


 影の言葉と同時に、俺の心象光景であるトラックの運転台が酷くあやふやな物になって行き、

幻のように消えて俺の周りが光に包まれ、意識が急速に


「う……ここは……?」

「おい、ヒサシ、この野郎! いきなり気を失って心配させやがって、やっと目覚めやがったか!!」

「あの凄く大きな杖、いや、銃を撃つ練習中に行き成り気を失った時は、心配しましたよ……目覚めてよかったです」


 俺が目を覚ますと、俺を抱きかかえる様に支えているレイクに、俺の左手を握り締めるセネルさんの姿が目に映った。

周囲を見渡すと、其処は意識を失うまでアンツィオ20mm対物ライフルによる射撃練習をしていた平原であった。

どうやら気を失ってそう時間は経ってないのか。


「レイク、俺はあれからどれだけ気を失っていた……?」

「そうだな、この『時計』って奴の表示を見たら、この長い針の先が5から7に差し掛かったあたりだな」

「そうか、20分ほど気を失っていたのか……」


 気を失ってから、そんなに時間は経ってないのか……。

そう思いつつ俺はゆっくりと起き上がり、頭を振って意識をはっきりとさせる


「ヒサシ、もう練習は良いのか?」

「そうだな、もうこんな常識に捉われたデカブツに頼る必要はもう無い」

「?? 何を言ってるんだ? ヒサシ」


 レイクの問いかけに対して、俺は地面に置かれたアンツィオ20mm対物ライフルを見やり、呟く。

尻尾をくねらせ頭に疑問符を浮かべるレイクを他所に、俺は『強化外骨格』の最後の力を使ってその20mm対物ライフルを両手で持ち上げると。

そのまま地面へと思い切り叩きつけて真っ二つに破壊する、俺のその突然の行動に、レイクもセネルさんも驚いた様に俺を見ていた。

その際『強化外骨格』は完全に機能を停止し、左腕のモニターがブラックアウト、俺は躊躇いも無く『強化外骨格』を脱ぎ捨てる。

俺は真っ二つに折れた対物ライフルだった残骸を指さして、未だ驚いた様子のレイクに言う。


「やれやれ、さっきので『強化外骨格』も壊れちまった。だからレイク、こいつを箱に入れるのを手伝ってくれ」

「ヒサシ、いきなりどうしちまったんだ? これを使わないとヴァリアウスに勝てないんじゃ……」

「ああ、これから作るのは、それ以上の強力な代物だよ」


 そして、俺はレイクと共にアンツィオ20mm対物ライフルだった残骸を箱の中へ放り込む。

ついでに、射撃練習で反動を何度も受け止め続けた事で機能停止した『強化外骨格』も箱の中に放り込む。

蓋を締めて箱に触れつつ頭に思い浮かぶのは、一応現実に存在しているが、手持ちの物は架空にしか存在しない武器のイメージ。

一瞬だけ箱は沈黙すると、文様を白く明滅させて中の物を分解し、俺の発想通りの物へと再構築していく。

やがて、箱の文様が青く明滅し、中の物が完成した事を知らせる。

はてさて、俺の発想通りの物が出来ているか? 俺は期待と不安を胸に抱きながら箱の蓋を開ける


「よし、思った通りの物が出来た……」


 箱の中にあったのは、形状を変化させた『強化外骨格』の背部に超高出力高容量バッテリーパックが装着され

其処から伸びたケーブルの先には、長く四角い開放型バレルが特徴的な近未来的なデザインをしたフォアグリップの付いた長さ1mほどの銃。

更に、超小型量子コンピューターによる弾道計算を行うユニットを内蔵したバイザー付きのヘルメットがあった。

俺はそれらを一つ一つ取り出し、発想通りに出来ているか確認していく。


「何だこりゃ、『強化外骨格』に変な兜が付いて、更に背中に何か箱の様なのが付いてて、其処から何かの線が付いた……銃なのか」

「ああ、これらの装備がある種の一つの武器になっていると言って良い」


 尻尾をくねらせ不思議そうに眺めるレイクに言いながら、俺は完成したそれらを装着してゆき、着け心地を確かめる。

そして右手についているコンソロールパネルの電源を起動させ、新たな『強化外骨格』を目覚めさせる。

起動したコンソロールパネルのモニターには『強化外骨格』の各部状態や装備している武器の状態、バッテリー残量が表示される。

俺はそれを確認した後、装着したヘルメットのバイザーを、顔の上半分を覆う様に射撃位置に下ろすと、

その中のHMD《ヘッドマウントディスプレイ》が起動。

その投影された画像越しに、此方へ妙な物を見る目を向けるレイクを詳細に観測する表示と、各種状況を知らせる表示や残弾数が表示される。

そして、俺の右腕のコンソロールパネルを操作すると、表示されたメニューからシステムを選択する。

すると、ヘルメットのモニターに新たな画面が投影され、その中に一つのアイコンが現れると同時に、俺はそれを選択。

《System Start》と表示が現れた瞬間、背中の高容量バッテリーパックからの電力の供給が始まり、

電力供給ケーブルの先の開放型バレルの銃が使用可能になった事を知らせるランプが明滅する。


「さてと、いっちょ一発試射でもしてみますか」


手に持った開放型バレルの銃のセンサースイッチを操作すると、HMDに量子コンピューターが計算した弾道が表示され、

フォアグリップについている機器を操作する事でスコープの倍率を操作して、

先程はあんなに撃っても掠りもしなかったヴァリアウスの頭部を模した標的に照準レティクルを合わせる。

それと同時に、外骨格の腕部関節がロックされ、脚部のアウトリガーが展開し地面に固定され、発射時のブレを最小限に抑える。

フォアグリップを握り、最終安全装置を解除、俺は躊躇いなく銃の引き金を引く。

同時に大電力を送り込まれた開放型バレルに青い放電が走り、次の瞬間。


――バシュンッ!――


僅かな反動と共に、大電力によるローレンツ力によって超加速された弾が、マッハ5を超える速度で射出される。

その凄まじい運動エネルギーによって風の影響も重力の影響も全く受ける事も無く、弾丸は標的に着弾、標的の頭を容易く消し飛ばす。

アンツィオ20mm対物ライフルでは掠りもしなかった標的へあっさり命中させた結果に、俺は満足げな表情を浮かべて言う。


「よし、成功。元の世界じゃまだ開発すらされてない携行型レールガンの完成だ!」


こいつの名前としては、そうだな、伝説龍エンシェントドラゴンに対抗しうる武器という事で『エンシェント・ブレイカー』と名付けておくか。


「れーる……がん? レールガンってなんだ? ヒサシ」

「レールガンってのは……そうだな、レイク、磁石ってわかるか?」

「それ位は知ってるよ、鉄をくっつけたり、離したりする奴だろ?」

「まぁ端的に説明すると、その磁石の仕組みを応用して凄まじく強力にした力で、弾を飛ばすのがレールガンだ」


 尻尾をくねらせて首を傾げるレイクに対して、俺は少し自慢げに話す。

この世界とは違う異世界からやって来た俺だから判る、元の世界での空想世界の産物の一つをこの世界に顕現させた事を。

因みにレールガンとは、強力な電磁石によって加速された弾丸を撃ち出す装置の事であり。

原理は至って簡単で、金属製の二本のレールに大電流を流し込む事で、強力な磁場を発生させ、

其処へ弾丸となる導体を設置する事で、強力な磁場によるローレンツ力によって弾丸が加速されて撃ち出されるというシンプルな仕組みだ。

とは言え、元の世界では様々な技術的課題で小型化が難しく、未だに艦船に搭載してやっと運用が可能と言う代物であり、

俺が今しがた試射した様な携行式の実戦型のレールガンは、まだ実用化には程遠く、アニメや漫画の世界の物となっている。

しかし、俺は発想力をフルに生かして、小型高容量大電力のバッテリーパック、正確無比な弾道計算は可能な超小型量子コンピューターシステム。

そして連射しても摩耗を殆どしないレールを内蔵した上で小型軽量化したレールガンを作り上げる事が出来た。


「すげぇなぁ、これさえあればあのヴァリアウスとの賭けも簡単に勝てるんじゃないか?」

「いや、これでもまだ不確定要素はまだたくさんあるよ」


 そう、このレールガンを使ってもまだ勝てる見込みはまだ五分五分になった程度だ。

問題はヴァリアウスの防御力がどれだけあるかという事だ。伝承によればヴァリアウスは幾多の戦いを経ても一切傷を負わなかったという。

もし、その話が本当であれば、下手をすればこのレールガンをもってしても傷つける事すらできない可能性もある。

そうなれば、ヴァリアウスとの賭けは此方の負けとなる事であろう……。


「よし、このレールガンが何処まで硬い物にダメージを負わせられるか、実証実験してみよう」

「実験って何をするのさ」

「まぁ、とにかく硬い物を色々と作ってみて、それを標的に撃ってみるって所かな、んでレイク、この世界で硬い物に心当たりあるか?」

「うーん、硬い物と言うとミスリルとかアダマンタイトとかオリハルコンとか……でも、そう簡単に手に入る物じゃないぜ?」

「なるほど、やっぱりファンタジーな異世界だとその手の金属が硬いのか……いっちょ作ってみるか」


 レイクの答えを聞いて、一先ずレールガンの装備を脱いだ俺は、そこら辺の石ころを拾い集めて、箱の中へ放り込んでいく。

ある程度箱の中に石ころが入った所で蓋を閉め、箱に触れながら多分一番硬いであろうアダマンタイト製の標的のイメージを送り込む。

箱は一瞬だけ文様が赤く光り、俺をドキリとさせるも、無事に文様が白く明滅し、中の石ころを分解して再構築させ始めた、

やがて鉄製の標的を作る時よりも若干長い時間の後、文様の光が青く変わった事で中の物が完成した事を知らせる。

俺はレイクといつの間にか傍に来ていたセネルさんの見守る中、箱の蓋を開くと、其処には不思議な黒い金属光沢をもつ標的が入っていた。


「これ、かなり昔に見た事ありますけど、アダマンタイトで出来た物なのですか……!?」

「マジかよ、本当にアダマンタイトの標的を作っちまった……!」

「いや、俺自身本当に出来るとは思っても無かった」


 俺は驚きを隠せない二人に、苦笑いしながら答える。

だってまさか本当にアダマンタイト製の標的が出てくるとは思わなかったからだ。

この異世界の技術や材料をもってしても、恐らく正攻法では絶対に手に入らないと思っていた代物だ。

だがしかし、今こうして目の前にあるという事は……まぁ深く考える事はよそう。

一先ずはこの標的を設置して……と考えた矢先である。


《ピンポーン、権能がレベルアップしました――『機能:薬品精製』を取得いたしました》


 俺の頭の中で、かなり久しぶりに聞いた、素っ頓狂なチャイムと共に、電子的な女の声のアナウンスが響く。

いや、薬品生成って……今の状況に必要な能力じゃないし、まぁ一先ず気にせずに標的を設置するとしよう。

それにしても流石はアダマンタイト、持ち上げてみると結構重たくて腰に来る、40代には結構厳しい。

仕方ないのでレールガンシステムの『強化外骨格』の部分だけを装着して運ぶ事にした。


「さてと、このレールガンがアダマンタイトにダメージ入れられるかな」

「アダマンタイトを標的に使うって、勿体ない気がするなぁ……売れば結構な金になると思うんだけど」

「そうですよね、これを鍛冶屋に持って行って鎧とか剣を作って売れば、かなりの大金になると思うのですけど」


 標的を設置し終えた俺は、射撃位置に置いてあったレールガン装備一式を装着し、射撃準備に入る。

その際、レイクとセネルさんが何やら言っているが、俺は苦笑いしてそれを適当に受け流しつつレールガンのシステムを起動させる。

システムに問題が無い事を確認した後、脚部のアウトリガーを展開して地面に固定、バイザーのHMD越しに映る標的に照準レティクルを合わせ、フォアグリップを握り、引き金を引く。

バックパックの大容量高出力バッテリーから電力を送られた銃身の開放型バレルが青い放電を発生させて、その直後。


――バシュンッ!――


 大電力により発生した凄まじいローレンツ力により加速された弾がマッハ5を超える速度で射出される。

その凄まじい運動エネルギーによって風の影響も重力の影響も全く受ける事も無く、標的に目掛けて飛んで行く弾丸。

弾丸が標的に直撃したと同時に火花が飛び散り、結構重かった筈のアダマンタイト製標的が思いっきり吹き飛ばされるのが見えた。

はてさて、レールガンによるアダマンタイトへのダメージは如何ほどに……?

期待と不安を入り混じらせながら、レールガン装備一式を脱いだ俺は、レイクとセネルさんを伴って標的の元へ向かう。


「うわっ、すげぇ……アダマンタイトの標的が思いっきり変形してやがる」

「貫通こそはしてないですけど、弾が当たった部分は殆ど原形を留めていませんね……」

「まぁ、アダマンタイトでもこれだけダメージを与えられたら十分、かな……?」


 二人が驚きの声を上げる中、俺は標的へ近づいてみると、そこにはアダマンタイト製標的が大きく変形して転がっている。

レールガンから放たれた弾丸が当たった部分に関しては完全に溶解し、最早原型を留めているとは言い難い状態になっており……。

流石にこの結果は想定していなかったので、俺自身も苦笑いするしかない状況だ。

……その後、箱を使ってオリハルコン製の標的も作って試射してみたが、結果は同じ様な感じであった。

どうやら俺の作ったレールガンは、オリハルコン製の標的にすらダメージを与えられる様だ……。

一先ず、威力に関しては問題ないと分かったが、ヴァリアウスとの賭けに勝つ為にはまだ要素が足りない。


「なぁ、この二つの標的さぁ、後で持って帰って売っても良いか?」

「それは良いけど、ヴァリアウスとの賭けに勝った後で考えよう。今はレイク、そしてセネルさん、二人にも役目を与えたい」


 金を見る目で二つの標的を見るレイクに、俺は苦笑しながら答えた後。

俺はレイクとセネルさんに、ヴァリアウスとの賭けに勝つ為の役割を二人に与えようとする。

それは、ヴァリアウスとの賭けを確実に勝つ為の布石であり、レイクとセネルさんへの信頼を示す物でもある。

俺は二人に対して、その役割を伝えるべく口を話し始めたのだった……。

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