ふたりぼっち

中川葉子

この世に二人しかいない

「なぁ、嬢ちゃん。アンタも死に損ないかい?」


 静かに揺れる夜の森の中、やけに大きなサングラスをかけた痩躯の男は、涙と諦念が溢れる黒髪の白いブラウスを着た少女に声をかける。


「えぇ。今しがた損なったところ」

「俺もなんだよ奇遇だな。一個いい話をしてやる」


 男は頬に大きな皺を作りどこかニヒルな笑みを浮かべる。男は煙草に火をつけ、紫煙と共に顎を突き出す。少女は呆れたように口を開いた。


「どうせ生きた方がいいとか言うんでしょう?」

「いーや。そんなことは言わない。どこか遠くで幸せになろうぜ。ここで会った俺と」


 男はサングラスを外し少女の眼を覗き込む。少女は驚いた顔で眼を逸らす。


「今、死にぞこなったんだ。たった今。もうちょっとだった。けど、無理だったんだ。だからよ眼が赤いだろ。首にも跡が残ってる。ああ、嬢ちゃんも跡があるな」

「けど、だからって、なんであなたと?」


 男は火のついた煙草を葉の山に投げ込み、ニヤニヤと笑いながら続ける。


「死に損ないが同時に発生したんだ面白いだろ? そいつらが二人で遠くで幸せになりゃあ世界への復讐になる。で、幸せの絶頂で死んでやるんだ」

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ふたりぼっち 中川葉子 @tyusensiva

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