第7話 終末
近未来SF小説
4月、最初の噴火から3年が経過した。AIが予想した終末の年になった。
隆一が、走って帰ってきて
「ゾンビの集団が山に向かっている」
と言い出した。そこで、登山道を遠くから見ると確かにやせこけた人たちが無言で山に向かっている。その数100名ほど。そして頂上近くの展望できる場所につくと、何やらお祈りが始まり、その後次々に飛び降りていった。ためらっている人には他の人が手を引っ張って飛び降りていった。1時間もしないうちに全員がいなくなった。
がけの下に行く気にはなれなかった。たとえ生き残っていたとしても、助けられないと思ったのだ。工藤は
「しばらくは煙をたてられないな」
「そうだね。山に人がいるとわかったら、何をされるかわからないからね」
煮炊きができなくなり、食べ物が極端に減った。
ラジオは放送が終了した。とうとう外界の情報ははいってこなくなった。
工藤の知らない世界は悲惨な状況だった。
ヨーロッパでは難民や不法移民との抗争が激しくなり、暴動ではなく内乱状態となった。難民による侵略戦争といえなくもない。自国から武器を持ち込んで戦っているのである。
アメリカでもメキシコからの不法移民との戦いに明け暮れていた。
ロシアは食料の奪い合いで自国民同士で争っている。
良識ある人たちはゾンビみたいになって、集団自殺するしか道がないのである。
5月、地震が相次いだ。いよいよ最後の日が近づいているのかもしれない。工藤は空を見上げ、
「隆一、空を見てごらん。龍みたいな雲がうかんでいるよ」
「すごいね。まさに自然の芸術だね。でも、これって、もしかしたら地震雲?」
「そうかもしれない。大震災の前にもこういう雲を見たことがある」
「いよいよかな?」
「覚悟はできている。隆一は?」
「いまさらじたばたしても仕方ないね」
「そうだな。母さんと亜美はどうしたかな?」
「母さんは都会暮らししか知らない人だから、ここでは暮らせなかったと思うよ。亜美は今年で20才になるのに・・どうしてるやら?」
「妹が心配か?」
「実は、ここに来る前に母さんと亜美に会ってきたんだ。父さんのところに行かないかと誘ったんだけど、二人ともバカなこと言わないで、と迷いもなかったよ」
「そうか、亜美とは小学生のころまでしか知らないからな。兄弟のつながりが少ないか」
「7才も離れているからね。大学から東京暮らしをしたので中学生からの亜美をよく知らないんだよね」
「めったに家に帰ってこなかったからな」
「親父に反抗していたからね」
「亜美も中学生になってからは、オレと話をしなくなったもんな」
「女の子は皆そんなもんだよ」
その日の夜、とうとうその時がやってきた。棚から物がおちるぐらいの地震がきた。
「でかいな」
と工藤が言うと、隆一が
「地震がくるのを事前に感じなかったよ。近いね」
と言ったところで、ドドーンと大きな炸裂音がして大きく地面がゆれた。外に出ると山が火を噴いている。休火山だったが、いよいよ噴火したのだ。
地割れが起きた。このままいたら地割れにのまれるか、はたまた火砕流で流されるかだ。
「逃げるか?」
と工藤が隆一に聞く。工藤は逃げる気はない。
「父さんにその気はないだろ。オレも運命にさからう気はないよ」
「そうだな。いつかは死ぬんだ。バタバタしても仕方ないな」
「苦しまないで死ねたら、それで充分だよ」
「その時がきたら、どうする?」
「そうだな。父さんと抱き合って死のうか?」
「ハハっ! そんなことしたことないからな。それもいいか」
と、赤く輝いている空を見上げながら二人は笑い合った。
あとがき
「地球壊滅」を読んでいただき、ありがとうございました。私にとっては、初めての近未来SF小説です。実は、これに近い夢を見て、3日で書き上げました。噴火という自然現象がきっかけですが、実際には人々の争いで滅亡することを書きたかったというのが本音です。少しでも全世界の人々が和やかに過ごせることを切に願っています。
飛鳥竜二 2025.2.20
地球壊滅 飛鳥竜二 @jaihara
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