第6話 流通停止

近未来SF小説


 7月、ガソリンスタンドが休業となった。ふもとの町だけでなく、全国各地でガソリンの流通がストップしたらしい。これで物流が止まった。混乱の時代でもトラックさえ動いていれば物が手に入った。物流が止まれば、物価があがる。給料がない工藤にとっては貯金を切り崩すしかなかったが、妻に通帳を渡しているので、手元に残ったお金はごくわずかとなっていた。これで現世とのかかわりを断つ決心をするしかなかった。米を作ることをしていなかったので、残り一俵(30kg)が最後の米となったのである。これで1年を暮らすと覚悟した。

 山ごもりの生活が始まった。隆一の存在は大きかった。魚の収穫、水場の点検、鶏の世話、まき割りが彼の主な役目となり、工藤は畑仕事と家の補修、そして料理が主な仕事となっていた。洗濯はめったにしなかったので、二人とも次第に浮浪者みたいな姿になってきた。

 10月の秋が深まった時、来訪者がやってきた。大森である。100km以上歩いてきたとのこと。やせ細っていて、ろくに食べていないという。

「工藤さん、町はもう終わりだ。店は閉まっているし、倉庫には押し込み強盗があいつぎ、物の奪い合いばかりだ。オレの家にも強盗がはいり、保存食を奪われた。もう死ぬしかないと思ったが、もう一度たらふく食べてから死にたいと思い、工藤さんのところにやってきた。何か食べさせてくれないか」

 ということで、その日は鶏を一羽さばいた。久しぶりの肉料理だった。大森だけでなく、隆一も夢中になって食べていた。大森は涙を流さんばかりに喜んでいる。

 翌日、目を覚ますと大森はいなかった。寝袋はきれいにたたまれている。そこに、

「ありがとう」と書かれた紙がおいてある。外にでてみると、少し離れた大木にロープをつって、そこで死んでいた。隆一も起き出してきて、二人で手を合わせ、近くに穴を掘り埋めた。墓標には「最後まで善を貫き」と書いておいた。

 冬がやってきた。この日のために保存食をたくわえてきたが、雪の下にある野菜の収穫をするようにした。温暖化のせいか、思ったよりは雪は少なかった。

 1月のある日、息子の隆一が息せききって帰ってきて

「ふもとの方で死体を見つけた。やせこけていてまるでゾンビみたいだった」

 ということで、二人で確認してみた。まさにゾンビの死体だった。顔がやせ細っており、飢えと寒さで死んだことは明らかだった。穴を掘るのは難しいので、雪をかぶせて埋葬した。

春になったら穴に埋めることにした。

「隆一、これからふもとにおりるのはやめた方がいいな。足跡をつけたら、それを見て追っかけてくるやつがいるかもしれない」

「そうだね。ゾンビになった人におそわれるかもしれないね」

 緊張の冬の日々となった。

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