#002 テイマー未満

「あきらめて、酒場とかで働けば?」

「うぅ、向いていないのは分かっているけど…………そういうお仕事は、やっぱり」


 私の名前は"ミュレー"。田舎街に暮らす何の変哲もない平民だ。そう、ただの凡人。実家は宿屋で、出来る事なら手伝いでもして実家暮らしを続けられたら良かったのだが…………生憎私は末娘。兄さんと姉さんがいて、宿屋は後継ぎも決まっている。そんなわけで私は、成人を機に家を出て冒険者になることとなった。


「何言っているの、それだけの武器をぶら下げておいて」

「それ! そういうのが、苦手なの!!」


 残念ながら私に冒険者としての才能はない。かろうじて適性試験で調教師テイマーのE判定を受けたが、判定だけで肝心の調教師試験にまだ合格していない。それならもう『労働者として街で働けば?』と思われるだろうが、街で働くには条件があってそうもいかないのだ。


「とは言ってもね。E判定じゃ、やっぱり無理だよ。アーシも親友のよしみで付き合ったけど、そう何度も付き合っていられないし」

「それは、本当に感謝してる。ありがと、"リーゼ"」


 彼女の名前はリーゼ。私の幼馴染で斥候スカウトでC判定を受けた。特段高くはないけど、やはりCまでいくと簡単な仕事なら安心して任せられる。


 才能(判定)は良いに越したことはないが、実際のランク(認定)は高ければ良いというものでもない。高ランクの冒険者が新人を差し置いて低ランクの依頼を受注するのは憚られるし、高難度の仕事は報酬が増える代わりに厄介ごとだらけ。対して低ランクは比較的安全なのもそうだが、派遣依頼が無いので『街や村に住みながら働ける』のが魅力となる。


「まぁ顔は良いんだし、最悪初心者ノービスのまま薬草採取とかをこなして…………うまいことベテラン冒険者と結婚するのがいいんじゃない?」

「うぅ、私なんて、べつに……」


 冒険者は、出来ることの証明としてクラス認定を受ける。調教師や斥候がそれであり、今は<Eランク調教師>の認定条件である『従魔(ランクは不問)と契約』のためにリーゼに護衛してもらっていた。


「ともあれだ、選り好みできるのは持つ者の特権。調教師にしろ寿退社にしろ、まずは"選ぶ権利"を手にしなくちゃね」

「そう、なんだよね……」


 リーゼに手伝ってもらって何体か低ランクの魔物のテイムを試みたけど、結局成功ならず。完全な無能力はFであり、私の場合はその最低条件をクリアしただけ。基本的にどのクラス認定も最初は簡単なのだが…………調教師に限っていえばEランクは逆に難しいまである。その理由はテイムにおける3つの条件にあって……


①、調教師側の技能。魔物と意思疎通をする為の魔道具を使えるか。あとは魔物によって餌や魔力など対価を要求してくるので、それを用意できるか。対価はさておき、魔道具はこれまで家の手伝いをして貯めたお小遣いで(最低ランクではあるけど)揃えてある。


②、契約の同意。当たり前だが嫌がる相手を無理やりってのは出来ない。これにかんしては裏技があって、魔物をタマゴから育てて親だと思わせる方法だ。しかしこの方法も手間がかかるうえに確実ではなく、E判定の私は空振りに終わる可能性が高い。


③、魔物の知能。Eランクの私にとっての最大の難関。スライムなど私よりも弱い魔物はそれなりにいるのだが、このランク帯の魔物は大半が指示を理解するだけの知能を持たない。適正判定は成長にともなってランクアップすることもあるので、初心者のまま活動してソレを待ちつつ、知能の高い低ランクの魔物を地道に探すしかない。


「まぁ判定がすべてじゃないし、気長にコツコツやっていくしかないんじゃない?」

「そうだ…………ね」

「ん? どうしたの??」

「あぁ、いや、何となく」


 一体のスライムが目にとまり、思わず拾い上げてしまった。見た目は何処にでもいる普通のスライムだけど…………何故だか気になってしまう。


「アハハ、いっそそのスライムでもテイムする??」

「うん、やってみようかな」

「マジ!? やるだけ無駄だと思うけど」

「私もそうだとは思うけど…………いちおう、ね」




 うまく言葉には出来ないけど、何かを感じ、私はスライムのテイムを試みる。

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