智人-2・バクニーとの出会い

 時計が無いからよく解らないんだけど、多分、30分くらいは歩いたと思う。だけど、相変わらず森の中で、村の気配は無い。


「ふぇ~・・・ちょっと休憩」


 満足に歩けないほど病弱ではないが、クラス内では体力がある方ではない。30分歩いた程度でダウンはしないけど、「先が見えない状況」は気持ちが滅入ってしまう。現在地を確認する為に、A2サイズの魔法の地図を開いた。まだ先は長い。


「いま何時だよ?日が暮れる前に行けるのか?」


 野宿なんてしたことが無い。焚き火もしたことが無い。火の熾し方なんて解らない。


「アイツ(声)、俺が求めた世界って言ってたけど、

 どこがどう、俺に優しい世界なんだよ?」


 睡眠をする気は無いが、寝転がって10分くらい(時計は無いけど)休むことにした。


「きゃぁぁっっ!」


 女の悲鳴が聞こえる。飛び起きて声の方向を見たら、二頭立ての幌付き馬車が突っ走ってくるのが見える。急いでいるらしく、馭者が必死になって馬に鞭をくれている。

 その真後、【大柄で醜悪な黒ずんだ肌をした複数の人型生物】が、棍棒や斧を振り回しながら馬車を追っている。


「えっ!?えっ!?」


 どう見ても、追っている方が「悪役」だ。

 馬車は逃げ切れるのだろうか?馭者は【醜悪な巨漢】の群れに捕まるのだろうか?

 一応、剣を持っているけど、戦い方なんて解らない。原住民と接触したいけど、巻き添えには成りたくない。万が一の為に鞘に入った剣を抱き締めて、大木に身を隠して様子を眺めることにした。


「・・・いや、ちょっと待てよ」


 先程、女の悲鳴が聞こえた。だけど、馭者は男だ。つまり、馬車の中に女がいる。馭者は醜悪な巨漢に殺害されるとして、女はどうなる?殺害されるのか?捕虜になるのか?若い女がモンスターの捕らわれて慰み者になる展開はコミックで読んだことがある。


「こ、これって、ゲームやアニメの“お約束”バターンだよな?」


     キミが求めた世界だ。

     特殊能力=【富醒(フセイ)】を与えられる。

     キミの富醒フセイは、想像を攻撃力に変える【イメージ】だ。


 光のガイドの言葉を信じて「剣」をイメージしてみる。すると、目の前に光が発せられて、初期装備と同じ剣が出現した。


「スゲぇ・・・イメージ通りだ」


 手応えを感じた俺は、右手を上げ、人差し指を馬車の後に向けて、沢山の剣をイメージする。自慢じゃないが、オンラインゲーム【ノーロピアンワールド・アクション】をやり込んでいるおかげで、空想の武器には詳しい。


「無数の剣よ!モンスター共を貫けっ!」


 馬車を追う醜悪な巨漢達の頭上に光が発生して、無数の剣が刃を下に向けて落下!想定外過ぎる攻撃を受けた巨漢達は串刺しになった!


「瞬殺かよ?俺の富醒フセイ・・・【イメージ】だっけ?メッチャ強いじゃん。」


 恩人なんだから馬車に乗せて欲しい。・・・と言うか、馬車に乗せてもらうのが“お約束”のはずだ。俺は、手を振りながら馬車の前に飛び出した。


「何をそんなに急いでいるんですか!?追っ手なら、俺が全滅させましたよ!」


 前しか見えていない馭者には俺の言うことが理解できず、馬車の進路を僅かに変えて脇を通過した。


「待って!止まってください!その男性の言っていることは事実です!」


 幌の中から女の声がした。馭者が指示に従って馬車を止め、立ち上がって後ろを確認する。

 俺の興味が、もう怪物には向いていないからだろうか?いつの間にか、俺がイメージした無数の剣は消えており、惨殺体となった怪物達だけが転がっている。


「君が・・・助けてくれたのかね?」

「一応・・・そういうことに成ります」


「すごいわ、貴方っ!」

「えっ!?」


 相乗りの交渉をしようとしたら、幌が開いて乗っていた若い女が顔を出した。その瞬間、俺は、その女性から眼が離せなくなる。正確に言えば、彼女の整った顔と豊満な胸に見取れてしまう。女性は、馭者の手を借りて馬車から降りて、小走りで俺の所に寄ってきた。


「助けていただいき、ありがとうございます。

 お礼に、晩餐に招待させてください」


 歳は俺と同じくらいだろうか?お姫様ほど立派な格好ではないが、それなりに綺麗なドレスを着ているから、庶民ではなく、貴族の令嬢か?広い襟元から、見事な胸の谷間が存在感をアピールしている。


「い、いや・・・当たり前のことをしただけなので・・・」

「そんなことを言わずに・・・是非、お礼をさせてください」

「ああ・・・まぁ・・・そこまで言うのなら」


 内心ではガッツポーズをしているが、露骨に態度で示すのは格好が悪いので、格好を付けてクールに対応をする。


「私の名は、バクニー。バクニー・ホーマンと申します。貴方の名は?」

「お、俺は・・・徳川智人」

「トクガワトモヒト?変わったお名前ですね。

 どちらの地方のご出身なのですか?」

「え~~~~っと・・・どちらと言われても、こことは違う世界でして・・・」

「えぇっ!?貴方、もしかして【秘境者ヒキョーもの】ですか?」

「ひきょうもの?」

「異世界から、この世界に召喚される者・・・

 私達は、その様な方々を秘境者ヒキョーものと呼ぶのです」

「ああ・・・まぁ・・・そんな感じです」


 それまでは同じ目線で接していたバクニーが、片足を引き、ロングドレスの裾を持って、膝を曲げて、恭しく礼カーテシーをする。俺はバクニーの胸に見取れっぱなしだ。


「噂でしか聞いたことの無かった秘境者ヒキョーもの伝説・・・実話なのですね」

「伝説・・・ですか」


 転移は俺が初めてってわけではないらしい。伝説扱いされてるなら、最近の出来事では無い。かなり昔に存在したってことか?そいつは、リアルワールドに戻って願いを叶えたのだろうか?


「伝説の秘境者ヒキョーものとの出会いを蔑ろにして、

 お招きすらしないのでは、私がお父様に叱られてしまいますわ」

 さぁ、トクガワトモヒト様、馬車にお乗りください」

「助かります。ではお言葉に甘えて・・・

 フルネームでは言いにくいだろうから、

 俺の名は、徳川か、智人って呼んでください」


 異世界に来た直後に、通りすがりの魅力的な令嬢を救って仲良くなる。これはもう、完璧に、何度も妄想をした“お約束”バターンだ。

 俺は、小躍りしたい気持ちを抑えて、クールに徹しながら馬車に乗り込んだ。


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