第26話 旧知
自分とノア、ナハイムに加えオーロラとミライを伴い大銘宮の前に立つ。
すっかり日も暮れ、東の空には月が登っている。眠いらしく、オーロラはミライに寄りかかるようにして立っている。
「大会の観戦をしてた時は元気だったんだけど……興奮しすぎて疲れちゃったみたい」
ほぼ一日会えていなかったので話せないのはちょっと寂しい。けれどその様子を聞けただけで少し嬉しかった。
宮殿の門から本殿と呼ばれる建物までの道には、仰々しい格好をした兵士たちが左右に立ってこちらを見ている。
なんとなく見張られているようで、歩いている間はずっと緊張してしまう。
本殿の門の前へとたどり着くと、一人の礼服を着た中年の男が両袖を合わせてこちらに礼をする。
「お待ちしておりました『スカーシルバー』殿。そして、旅団『ブルーバード』の皆様」
ノアの額にシワがよる。嫌という訳ではなさそうだが、何故ここまで顔をしかめるのだろうか。
「やはり名指しか、皇帝から聞いたのか?」
「陛下は随分とお待ちですので、問答は陛下に直接なさった方が良いかと」
あーめんどくせぇ、とボソリと呟くのが聞こえる。皇帝もノアの事を知っている様子だったし、もしかして――とばかりに変な想像が脳を支配する。
「ウィッシュ、変な詮索はするな」
「……ナニモイッテナイデスヨ」
心を読まないで欲しい、心臓に悪い。
「誤魔化し方を後で教えてやる」
「それはどうも」
わしゃわしゃと髪を雑に撫でられながら、中年の男の後へと続く。
宮殿内の長い通路を抜け、一際豪奢で華美な装飾の施された扉の前へとたどり着く。
「
「うむ、通せ」
男によって扉がゆっくりと開かれ、中に入ることを促される。
室内もまた豪華絢爛な内装だ。だが明らかにベッドや小さいテーブルがあるあたり、私室のような雰囲気が漂っている。
よく見る遠くの方にはあの店で振り回していた得物、棒が立てかけられている。間違いなくフードの人物は皇帝その人であるのだ。
「人払いをしておきます」
「うむ」
ベールの向こうから声が聞こえる。あの向こうにフードの人物、もとい皇帝がいるのだ。
扉が完全に閉まり、空間は完全に皇帝と自分たちのみになる。
「さて……そろそろ行儀の良い真似はやめようか」
ベールを開けて出てきた皇帝、その姿はまさに国の華と言うべき麗人そのものだ。
髪は簡単にまとめられているのみで、化粧も最低限だとわかる程度、しかしその肌のつやや体のバランスは二十代だと言われても信じるほどに若々しく整っている。
あの美しい皇帝機と遜色ない、いやそれ以上の美しさがそこにあった。
「初めまして『スカーシルバー』。そしてお久しぶりです、ノア先輩」
「はぁー……先輩はやめろ、鈴」
ノアはいかにもめんどくさそうに呟く。
「先輩? ……先輩?!」
ノアは帝国軍出身、皇帝もまた帝国軍で活躍した兵士だと言うことは知っている。
だがこの二人に関係があったなんて知らなかったし、何より先輩後輩の関係だなんて余計に想像がつかなかった。
「ナハイムさんもお久しぶりです。ナストアちゃんはお元気ですか?」
「すっかり大きくなって生意気になったさ」
「安心しました、随分と会えていませんでしたから。ミライも変わってないようで良かった」
「ええ、久しぶりね鈴」
感じる疎外感、かつての戦友同士の再開なのだから自分が挟まる余地などないのは当たり前だが。
オーロラも目を擦りながら、目の前の光景を不思議そうに眺めていた。
「さて、再会も程々にして本題に移るぞ……旧交を温めに来ただけじゃないんだからな」
「あらら、つれないですねぇ」
いたずらっぽく笑うその表情は、まるで一国の主とは思えないほどに無邪気だ。
「お前だってわかってるだろう。俺がわざわざ尋ねてくること自体が
「ええ、例のキャリアーの入港申請を見た時は目を疑いましたよ」
「だとしてももう少しこっそりできねえのか? 名指しするような人間じゃねえぞ、俺は」
「私にとってはまだ先輩ですので」
頭を掻きむしるノアの表情は、めんどくさそうでありながら柔らかい。
「――で、おそらくその子が要件ですか?」
目線の先にあるのはオーロラ。未だ記憶がなく、何もかもが分からない少女。
「ああ、帝国とそのトップの
「それは外傷的に?」
「精神的ショックだと思うわ。それがなんだったのかは分からないのだけれど」
「なるほど、ちょっと見ますね。おいで?」
多少警戒しつつも、オーロラがゆっくりと近寄って行く。皇帝に優しく抱きしめられると、眠そうだったのもあってすぐに頭を胸に預けてしまった。
「ふむふむ……髪も肌も目も綺麗なまま。アレもないみたいですね」
慣れた手つきで顔や手足、首筋を観察してから優しく頭を撫でる。
「服に『Aurora』と書いてあってな、今はオーロラと呼んでる」
「オーロラ……どこかで聞いた覚えがあるような」
そのまま頭を撫で続け、皇帝は少し考え込む。
「捕まっていたところには帝国の紋章があったらしい、そうだな?」
「はい、消えかけでしたけど」
「なるほど。恩義がない訳でもない国を疑うのもアレですが、先輩と優勝者の頼みです。調べてみましょう」
「助かる。ついでだが、リョウゴクへ渡りたいんだ。船を出してくれないか?」
うーんと考えるような素振りを見せる。
「そうですね……なら、こちらからも頼まれてもらえます?」
「どうした、何かあるのか?」
皇帝が端末をいじる。机が輝きデジタルウィンドウが起動し、一枚の小難しい文章が書かれたメッセージが表示される。
「リョウゴク、そしてサードヨークは現在、実質的に海上封鎖を受けている状態なんです」
「戦争でもやってんのか?」
皇帝が首を横に振る。
「何やら『海の怪物』に襲われているそうで、現在太平洋は渡ることができません」
「海の怪物ねぇ、何かしらあるのか?」
「その詳細については教えて貰えないのですが助けを求められているのは確かです。ですから先輩達が特使として向かってください。私からそのように文章を送っておきます」
「荒事か。ククルカンと俺のトラロックぐらいは用意しとくか」
ほぼ自分抜きに話がスラスラと進んでいく。怪物と戦った経験なんてないし不安でしょうがない。
ほぼ無意識に拳を固く握りしめる。暑くもないのに少し汗が滲んでいた。
「さて、頼み事については終わりだ。そろそろ」
「まぁまぁ、まだゆっくりしていってください。せっかく人払いをしたんですから」
「用意周到なところも変わらんな」
めんどくさそうにしていたが、ゆっくりと椅子に腰掛ける。
「あなたも座って、聞きたいだろう話ですから」
手招きされた。一体なんの話だろうか。緊張しながら椅子に腰掛ける。皇帝から離れたオーロラがすぐに自分の膝の上に乗っかってくる。
「さて……黒い神機、テスカトリポカについて話しましょうか」
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