第1話 四姉妹

「おはよっ、お姉ちゃん!う~ん、今日も美味しそうだね~」

広くない部屋の中は、焼き魚の匂いと、そこに少し焦げた卵焼きの匂いが重なり、いつもの朝の匂いがしていた。

「何が、おはようよっ!何時だと思ってるのよ!まったく。日曜日くらい早く起きて、朝ご飯の用意したらどうなのっ!真弓」


「あぁ~朝から、やめてよね怒るのは!顔洗ってきま~す」

「あっ、それとお姉ちゃん、間違いだよ、日曜日、だ、か、ら、ゆっくり布団から出るのよ~」真弓の屈託のない言葉がかえってきた。


「可愛くないんだから!もう!」

怒ったものの、それもそうかと思わず納得してしまう。


この家には、四姉妹が住んでいる。一番上が充希、その下に紗弥、その下に真弓、一番下に由岐がいた。


「由岐~、起きてる?起きなさい!ご飯食べるよ」

「は~い。今行く~!」

バタバタと由岐の足音は、いつも賑やかだ。

「おはよう。お姉ちゃん。顔洗ってくるねっ」


「ちょっ、ちょっと待ちなさい。由岐、熱、はいこれ、体温計やりなさい先に」

「えー、大丈夫だよ。ないない熱」

由岐は、胸の前で両手を素早く振り後ずさったものの、「ダメよ」と、姉の鋭い一言に捕まってしまう。


「お姉ちゃんは過保護なんだから。はい、はい、計ります」

「こらっ、どこ行くの!ここで計るのっ!由岐っ!」

「わ、わかった。ここでね~」

「ちゃんと挟めなさいよ」と言いながら充希は、お皿をテーブルに並べた。


すぐに「ピピピ……」と体温計が鳴り、由岐は体温を見せまいと、素早くケースに入れようとしたが、これもまた呆気なく捕まる。

「はい。体温計見せて」

充希は手のひらを由岐の目の前に出し笑顔で言った。仕方がなくそっと体温計を姉の手に置いた。

「ほら、熱あるじゃないの」


「あぁ残念。あっ、でも、お姉ちゃん出かけるんだよね?」

「だ、か、ら?どうしたの?」

「何でもないよ、聞いただけ」

由岐は、悪戯っぽい顔で姉の顔を見ながら言った。充希は、年の差もある由岐が可愛かった。


「紗弥は、今帰ってくるけどね」

「うそ!そうなのぉ。昼すぎまで友達のとこじゃないの?」

「残念ねぇ~由岐を布団から出さないように紗弥に言っておくからね。大人しく寝ていなさい」


少しふて腐れて「あ~あ~」そう言う由岐は、姉達の持て余すくらいの愛情を受けていた。



容姿端麗な充希は、母親代わりになり妹達の面倒をみていた。若い充希の時間は、全て妹達に吸い取られていた。




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日常 @wanwanwan123

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