魔王に転生したが勇者が既に城の前まで来てた
タルトタタン
第1話 魔王に転生、即ラスボス戦!?
――暗い。
視界がゆっくりと開ける。天井は高く、闇に包まれているのに、燭台の炎が赤く揺らめいていた。重厚な石造りの空間に、異様な圧迫感が漂う。
……いや、ここどこだ?
俺は思わず身を起こそうとするが、違和感に気づいた。何かゴツいものを着ている。視線を落とすと、漆黒のマントが肩から流れ、刺繍が施された豪奢な衣装が俺を包んでいた。
そして、座っているのは……玉座。
「……は?」
困惑する俺の前で、床にひれ伏す無数の影。見れば、異形の者たちが整列していた。角を持つ者、獣の顔をした巨漢、
闇に溶けるような長髪の美女……全員が、俺に向かって跪いている。
「魔王様、ついにご覚醒なされたのですね!」
ひときわ美しい魔族の女が、恭しく頭を垂れた。漆黒の長髪に赤い瞳。冷たい表情の奥に、どこか熱を孕んだ視線を向けてくる。
「え、魔王?」
「はい、魔王ルーゼス・ダルカン様。ついにその御身をお目覚めに!」
いやいやいや、待て待て。どういうことだ?
俺は確か、普通の社会人だったはずだ。
前田亮太、29歳。昨日までコンビニ弁当を片手に残業していた記憶がある。
それが、どういうわけか、異世界で「魔王」として目覚めてしまったらしい。
「えーっと、悪いけど状況を説明してもらえないか?」
「……まさか、魔王様……ご記憶が?」
「そ、そうだな。ちょっと頭が混乱してる」
「……なるほど。覚醒直後ゆえ、一時的な混乱も仕方ありませんね」
何か都合よく解釈されたが、まあいい。とにかく、話を聞いて状況を整理しないと――
「魔王様!至急お伝えしなければならないことが!」
突然、扉が乱暴に開かれ、羽の生えた小さな悪魔がパタパタと駆け込んできた。
「勇者が城門の前まで迫っています!」
「……は?」
「すでに我が軍の前衛は壊滅!城の防衛戦は最終段階に突入しております!」
「……は???」
一瞬、頭が真っ白になった。
いやいや、ちょっと待て。俺、転生して数分だぞ? チュートリアルも何もないんだが?
「魔王様、ご指示を!」
「魔王様、戦の準備を!」
周囲がざわめく。魔族たちは皆、俺の一言を待っている。
……どうする?
俺は戦ったこともなければ、魔法なんて使える気もしない。しかも相手は歴代最強の勇者?
普通に考えて、詰んでる。
「おい、冗談だろ……?」
俺は呆然とつぶやいた。
しかし、次の瞬間――
城門が、爆音とともに吹き飛んだ。
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