第55話 アイホートの雛の追放 - その5

2017年07月21日(金)1時01分 =萌葱町もえぎちょう警察署3F=


「屋上から侵入できたのはよかったが、どうやらはずれクジを引かされたようだな。」

 俺の目の前には廊下の中央でパイプ椅子に座って本を読んでいた男が居る。話から考察するに、穂積ほづみ伸二しんじだろう。

「貴方にとってははずれクジでもこちらにとっては餌がそっちから転がり込んでくれている。大当たりですね。」

 パタンと本を閉じ、立ち上がり、読んでいた本を椅子の上に置く。

伊藤いとうさんをどう掻い潜ったかは知りませんが、これは建造物侵入罪に問われます。まあ、出頭するのであれば減刑は考えますがいかがです?」

「お生憎そんなことに時間を使ってる余裕はないんでね。」

 どうする、ここで使?いや、ここで使うのはリスキーだ。使うのであれば壱級職員に使いたい。

「何やらいろいろお考えのようですが、どうします?踵を返して帰りますか?」

「そんなことできるかよ。」

 一歩、前へと進もうとした瞬間。地面に躓きバランスを崩す。その瞬間を待っていたかのように一気に距離を詰めて俺の顔面目掛けて膝が入る。

 4号ガーゴイルを挟めなかった...と言うより、稼働が不安定?

「残念、運がなかったね。」

「運だぁ?寝起きだから体が本調子じゃないかもな。」

「そう?だったら運が悪かったね。」

 運だか何だか知らねえけど、こいつの周りだとこいつが有利になるようになっているみたいなのか?

「ははっ、まるで少年漫画の主人公補正みたいだな。」

「どうだかね。でも、襲撃してきた敵をいなすのはなかなか燃える展開じゃないかな?」

 そう言いながら先ほどまで座っていたパイプ椅子を投げつけてくる。


細胞機械ナノマシン 試作品デモ 4号ガーゴイル


「流石に自分たちの備品を投げつけてくるのはなかなかいかれてるんじゃじゃないかっ!?」

 パイプ椅子の攻撃に気をとられていつの間にか伸二しんじに背後をとられていた。ここから4号ガーゴイルの展開をしても間に合わないか...。であるのならば、展開していた4号ガーゴイルに全体重を預けて地面に伏せる。すると、勢い余った蹴りが俺の上を通り、その勢いのままバランスを崩す。

「引っかかったな!」

 蹴り出していた奴の右足を掴み、俺の顔の左側に着地させるのと同時に4号ガーゴイルの変形の勢いもつけて上体を起こし奴の股間に頭突きをする。

「カッ...!がアァッ、クソがッ...ア゛ァ゛。いッデェエエ...!」

 苦悶の表情を浮かべながら伸二しんじは股間を抑えてうずくまる。

「有利に立っていると思って人を舐めてんじゃねえよ馬鹿が!」

 そう言葉を残して立ち上がり、全速力でこの場を去る。


 角を曲がり、もと来た道を引き返す。ここまでの探索の結果からこの階には多分居ない。となると2階か1階、あるいは地下という線すらある。

 そして、ついに最初の階段のところまで戻って来る。

 階段を駆け下りる。すると、上の階から金属が擦れるような音が署内に響き渡る。多分だが、文野ふみのがグレイを起動したのだろう。であれば、上層階の探索をしてる場合じゃない。一気に階段が続く最下層まで降りる。

 文野ふみの権限パーミッションじゃ細かい指定はできないはずだ。であれば、俺も巻き込まれてしまう可能性もある。だが、屋上で起動したのであれば通気口などを通じて上階から順に虱潰しに確認するだろうな。

 つまり、上階を調べるよりも下層から調べた方が安全かつ時短になるというわけだ。



2017年07月21日(金)1時06分 =萌葱町もえぎちょう警察署B2F=


 なかなかの距離だったが、この階段が繋がる最下層までたどり着くことができた。表記はB2F地下2階であることを示している。

 この階に津雲つくもめぐるが居るのであればいいんだが...。

 そう思いながら曲がり角を曲がろうとすると、パァンと銃声が一発、鳴り響く。

「あら、ちょっと早かったかしら。」

 右手に拳銃を持ちながらニマニマと薄っぺらい笑顔を張り付けている。

「今までの奴らを考えれば、お前が穂積ほづみ香苗かなえだな?」

「・・・なるほど。上の階で伸二しんじを倒したのはあなたね?」

「倒した...というか、まあ、もう少し体幹を鍛えさせたらどうです?」

「いやよ。伸二しんじ伸二しんじだからいいの。そのノーマルな伸二しんじこそ至高で最高なのよ!」

 うぇ?なんだこいつ。急に語り始めるとか...ナルシスト...いやブラコンってやつか。それも、重度で最悪な奴。まったく、馬鹿馬鹿しいな。

「そんなにその伸二しんじってやつが大事なら、見に行ってやらないのか?」

「大丈夫よ。伸二しんじにはね、がついてるんだから。」

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