第54話 アイホートの雛の追放 - その4

2017年07月21日(金)0時55分 =萌葱町もえぎちょう警察署屋上=


 奈穂なほさん、相変わらずの馬鹿力だったなぁ...。完全品フル用の4号ガーゴイルがなかったら骨まで逝ってたかな。

 奈穂なほさんに弾き飛ばされた私は、一旦離脱しドローンで裏側から屋上まで登っていた。

 れいちゃんの発明品である細胞機械ナノマシン試作品デモの全てが完全品フル用の部品だ。3号テュポーンを中心に7号ベルゼブブで近場の電化製品を解体し吸収、増殖。そして5号ワイバーンで増殖した細胞機械ナノマシンを保存された各試作品デモの機能に書き換え、1号ブギーマンで動作補助をする。そして、2号バルバトス4号ガーゴイル6号ファントム9号グリフォンで活動。更に破損部位は8号ウロボロスの自己補完の範疇で修復する。はっきり言ってオーバーテクノロジーにも程があるが、それでもロマンを求めるのが科学者というものだ。

 ただし、これを使うにあたっての注意点としては、私の命令をほとんど聞かないということ。

 9号グリフォンの制作に携わったからある程度の権限を持ってはいるが、それでも任務を与えるだけが私の権限の限界。所謂、ができない。

 だから、これは賭けだ。燈樫ひがしが巻き込まれずに津雲つくもを救出するという賭け。それに、多分だがまだ見ない奴らは中にいる可能性が高い。そうなると、燈樫ひがしだけじゃ力不足だろう。ただ、幸運なことに日がすでに回っている。つまり、燈樫ひがしの能力のリキャストが終わったということ。

 これが人工知能に効くと良いんだが...。

 そう考えながらもテキパキと準備を進める。とは言ってもやることは単純、私が一部分だけ取ってきた1号ブギーマン2号バルバトス4号ガーゴイル9号グリフォンとまだ私が使う6号ファントムの一部。そして、それ以外の全てを一纏めにして、3号テュポーンに命令を下す。


津雲つくもめぐるを警察署内から解放しろ】


 そう小声で唱えると、水色の光が一瞬光り細胞機械ナノマシン

 あとは任せるとしよう。任務遂行が終われば強制停止になるようになっているから心配の必要も無いだろう。

 再びドローンを用いて降下をする。少しだけとはいえ、奈穂なほさんの攻防から離れたことでこがらしが不利的状況に陥っていることには変わりない。すぐにで戻る必要があった。

 屋上から飛び降りてくる化け物さえいなければだが...。

「飛び降りてくるとか正気!?」

「んー、まだ酔ってるかもね。でも、体を動かす分には何一つとして問題はないさ。」

 その手には狙撃銃スナイパーライフルがあった。流石にこの距離で撃たれようものなら一溜りもないから銃口でも湯がせればいいという想定で攻撃をする。


細胞機械ナノマシン 試作品デモ 6号ファントム


 しかし、この攻撃すら何事もないように狙撃銃スナイパーライフルを持ち替えてストックではじき返した。そのくせ、あまりにも力強くこっちの方が押し負けてしまった。

「なんて馬鹿力っ、それに、傷一つすらつかないとかどんな素材使ってんのさ。」

「まあ、特注品オーダーメイドだからね。それに、屋上のあれ、君の仕業でしょ?」

 屋上のあれ...グレイのことか。

「どうだかね?」

「・・・意味ないのに嘘を吐くなんて無駄なことしないでくれよ。別に君の仕業だからどうとか言うつもりじゃないからさ。でもまあ、気に喰わないから君を殴りに来た。」

「ぼ、暴力反対!暴力反対!」

 思考回路どうなってんのよ。理性的なのか脳筋なのかどっちかにしろよ!

「そんなこと言わないでよ。それに、戦いに来たの君たちの方でしょ。」

「それはそうだけど...こっちにもいろいろ事情があんの!」

「事情ねぇ...そう言えば許されるとでも思ってんのか?」

 その言葉と共に身を張り裂くような殺気が放たれる。この威圧感、奈穂なほさんと同等かそれ以上にすら感じられる。

「まあ、だがこちらにも事情っつうもんがある。だからだ、あの機械に何の機能があるかを教えるのであれば俺は見逃そう。奈穂なほさんと戦いに行っても構わん。」

 何を考えている...?だが、手の内が割れようとあれを止めることはできない。であるならば、

「・・・だったら、教える。」こう答えるのが最適だろう。

細胞機械ナノマシン完全品フル『グレイ』は試作品デモの寄せ集めだよ。1号ブギーマンの動作補助機能、2号バルバトスの射出機能、3号デュポーンの自律思考機能、4号ガーゴイルの防御補助機能、5号ワイバーンの記録保存機能、6号ファントムの攻撃補助機能、7号ベルゼブブの増殖機能、8号ウロボロスの自己修復機能、9号グリフォンの飛行機能。これを細胞機械ナノマシン自身が考え活用する。それが『グレイ』だよ。」

 嘘はない。たとえ嘘を見破られる何かがあろうともバレることはない...はずだ。

「空想の怪物の名前を使っているが、その名に恥じない機能をしっかり持っているのもビックラポンだな。じゃ、頑張れよ...ああ、それと、あの男の方。ちゃんと細胞機械ナノマシンに命令をしないと、多分このままだと飲み込まれるんじゃないか?」

 重々承知だわ。だが命令について指摘してくるとは、余程目ざといのか、どこかで知ったか...。

 だが、彼は返答に満足したように手をひらひらと振りながら去っていく。一体、なんだったんだアイツは。

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