第43話 相対し、相反すれど、相生の民なり

2017年07月20日(木)13時52分 =萌葱もえぎふもと


「こちらの方へ足跡そくせきは続いているはずなんだが...、残念ながら途切れていてこれ以上先を追うことは出来なさそうだね。それと、ちゃんとリードはつけてるか?」

「モチのロンよ。犬耳も付けるか?」

 あれから萌葱山もえぎやまの方へ向かうこととなった俺たちは、彩花あやかの処遇に困り果てた。そこで、近衛このえさんに何か使える物がないか尋ねてみたところ、過去に犬を飼っていたらしくそれの残り物としてリードと首輪が残っていた。それと、犬耳とかのカチューシャについてはどこかからおおとりさんが取り出してきた、マジでどこに持っていたんだ...。

「あ...あの...、流石にこれ以上のプレイははずかしいっ...と、いうか...その、あの...。」と、もじもじしながら彩花あやかが言うが、

「黙れ、お前に発言権はないぞ。」とおおとりさんが一蹴する。

 あの奇行を行ったとはいえここまでの罰を与えるのは躊躇こそしたが、まずもって関わりたくないのでおおとりさんらから5メートルほど離れて燈樫ひがしさんと共に先を進んでいた。しかし、山の中腹である管理小屋の前で足跡は消えてしまい、おそらくこの付近まで来たのだろうという推測以外できそうにもない。

 だが、視覚情報からではなく聴覚から異様な音を拾った。金属同士が打ち合うような音が山頂の方から響いてくる。その音にすぐさま気づいた俺と燈樫ひがしさんの二人は後方にいる二人を置いて山道を駆け上がる。流石に、頂上付近に至る頃には燈樫ひがしさんも息が上がり、歩いて登頂をする。

 するとそこには奈穂なほさんと、聖夜前災せいやぜんさいの時に共に戦った文野ふみのがそこにいた。

 驚きからか、疲れからか、足を滑らせて大きく足音を立ててしまう。それに気づいた3名がこちらに視線を向けてくる。そのため観念したかのように振舞いながら燈樫ひがしさんと共に頂上へと昇る。そして、昇ってくる人物の名を思い出したのであろう文野ふみのが驚きながら俺らの名を零す。

燈樫ひがしに、こがらし...君...。それと...おおとり...こう。」

 いつの間にか追いついてきたおおとりさんの名も呼ばれる。驚き、俺の後ろを見るために振り向くとそこには、いつの間にか見知らぬ人物が居た。

 その人物は俺らの横を通って争い合っていた奈穂なほさんたちの方へと歩み寄る。そして、奈穂なほさんに対して話し始める。

「お久しぶりです、奈穂なほ壱級職員いちきゅうしょくいん。」

「...ああ。そういえば君もここにいたんだっけか伊藤いとうひさし弐級職員にきゅうしょくいん。」

 元弐級職員...つまり、俺の先輩であるというわけだがなぜこんなところに?

 そう困惑していると、おおとりさんが耳打ちをしてくる。

「彼はね、今、この山の管理人をしているらしいんだ。それで、急に多くの人が山を上がっていくもんだら何かあったのかと確認をしに来たらしい。」

 なるほど、確かに俺と燈樫ひがしさんは爆速で駆け上がったものだから何があったのか気になるのも理解できる。だが、なぜ公安をやめたのかという疑問は残るが、さほど緊急性のあるものではないためいったん置いておく。

 そして、そう考えているさなか、燈樫ひがしさんは文野ふみのの元へと近づく。そして、その時に気が付いたが小柄な女性がもう一名、奈穂なほさんの刀身を黒い金属のような何かで受け止めていたようだった。

 伊藤いとうさんと奈穂なほさんが小声で会話をするとともに、文野ふみの燈樫ひがしさん、そしてもう一名の女性の3名も同じように会話をする。どうやら、俺を含めおおとりさんと彩花あやかの2人も置き去り状態らしく、それぞれの会話が終わるまで待ちぼうけをさせられていた。

 だが、互いに積もる話があったのだろう5分,10分と刻一刻と時間が過ぎる。正直、彩花あやか文野ふみのがストライクゾーンに入るかどうかを聞いてみるのも面白そうだとは思ったが、15分が越えるかというところでどちらも話が終わったため聞くことができなかった。

「はぁ...まあいいわ。あなたの言いたいことは分かった。しばらくはあなた達の行動を黙認する、ただし、なにか事件を起こすのならば、その時は容赦しない。それを、肝に銘じておくことね。それと、こがらしくん。最終試験はもうすでに始まっているわ。このまま、何もせずにいるつもりなら...、こちらから仕掛けるわよ。」

 一気に背筋が凍る。冗談じゃない、あの人が襲い掛かってくるだなんて想像するだけでおぞましい。昨日の今日だって言うのにあの人はどうしてあそこまで急くんだ?

 そう逡巡している間に、奈穂なほさんと伊藤いとうさんは先に麓へと降りていく。

 その場から二人が去ったことで一気に張り詰めた空気が解ける。どうやら、なかなかシリアスな場面だったらしい。奈穂なほさんの攻撃を受けたのであろう彼女は緊張の糸がぷつりと切れ、ドサッと地面にへたり込む。

 とりあえず、まだ元気そうな文野ふみのから状況を聞くこととしよう。

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