第41話 霧霞、光求めて邁進す

2017年07月20日(木)12時55分 =萌葱山もえぎやま山頂=


「ま、そんな感じ。信じるも信じないも自由だけど。」

 そんな風に手のひらをひらひらとさせ、自分にはもう関係のない話かのようにしていた。しかし、その瞳から感じ取れるほどの哀愁を漂わせていた。

「ま、少なくとも私が言えることはだけど。それは、君たちが思っているよりも厄介な問題だよ。」

「だったら、なんだ?俺らにひかりちゃんを見捨てろと?」

「そうはいっていない。私はただ、彼女について教えただけ。逆上するのは勝手だけど、それを私に叩きつけようとするのはお門違いというのを理解しなよ。」

 遼太郎りょうたろうさんはそこそこ大きな声で先輩の言葉に噛みついたが、先輩はのらりくらりとそれを避ける。実際、先輩が言っていることは間違っていない。ひかりちゃんをそのような状態にしたのは先輩ではなく、ひかりちゃんの家族たちだ。しかし、理解はしていても納得はできていないようで、遼太郎りょうたろうさんは再び言葉を投げつけようとする。

「だがよ、お前が!」

「だから何?私はただ伝えただけ。あなたがその子を大切にしている、いや、守ろうとしているのは分かる。だけど、?君の意志は素晴らしいものだと思うけど、それを他者に強いるのは違うだろ。今、この問題において私は加害者でも被害者でもない、だ。それを理解しろ、少なくとも君の中に棲んでいる奴は理解しているぞ?」

 鼻先が付きそうなほど先輩が遼太郎りょうたろうさんの元に接近し、互いが互いをにらみ合う状態となったが、依然風は先輩の方に吹いていた。

「それで、一つ質問なんだけど。ひかりちゃんって危険なの?」

 バチバチとした空気感を裂くようにあゆみさんが先輩に聞く。

「ん?ああ、どうだろう。過去私たちが出会った素体は会話ができなかった。だが、少なくともそれは喋れるのだろう?であれば、のホムンクルスなんじゃないか?私が見てきたホムンクルスたちの中で会話できない者の方がなかったから分からないけれどね。」

「それじゃあ逆に、そのような存在も見たことがあるの?」

「ああ、もちろん。ひかりとやらを抜けば、3種類のホムンクルスを見たことがある。なにぶん、私みたいに有名で尊大な科学者だとそういう機会が多いのさ。」

 あぁ...、またいつものテンションが戻り始めてる...。まあ、そっちの方が空気が重くなりにくいしいいか。

「あ、そうだ。そろそろひかりとやらの耳を開放してやれ。これ以上話せることもないからね。ただその前に、この袋を...桃花ももかちゃんにあげよう。」

 そう言って先輩から見覚えのあるを手渡される。

「それ...、烏丸からすま家のからすの間にあった奴じゃ...。」

 それを見たレイちゃんは大きく目を見開きまじまじと私の手のひらに乗せられたそれを見つめ、観察している。

「中身は入れ替えたけれど、袋は元のものと同一のものだよ。もし、危険な目に遭いそうになったらそれを使ってね。桃花ももかちゃんにはこれからも頑張ってほしいからね!」

 そう笑顔で言われるが、先ほどの表情からころころと変わっているためちょっと恐怖心が混じってしまう。しかしながら、それ以上にその袋をどこで見つけたのかという驚きの方が上回り聞いてみると、「そこの灯篭にあった。」と、木陰に隠れていた古ぼけて苔むした灯篭を指さした。

「念のためだよ、念のため。いやぁ、本来なら倉庫の移送を予定していたんだけどそうもいかないかぁ...。」

「倉庫の移送...?もしかしてそのためだけに僕たちを連れてきたのか?」

「んぇ?うん。私が昔住んでいた部屋を倉庫代わりに使っていたんだけど、いろいろあった結果引き払うことになってね。その手伝いとして連れてくる予定だったんだけど、残念ながら今は手が空いていないみたいだし私一人だけでやってこようかなって思っていたんだが。もしかしてだけど、手を貸してくれたりするのかな?」

「いや、ひかりちゃんを保護する場所がなかった時に転がり込もうかと思ってね。」

「少しでも感心した私の感情を返してほしい。」

 先輩とレイちゃんの二人がコントのような会話をしているが、実際ひかりちゃんの保護については問題だ。少なくとも、ひかりちゃんを狙う組織として、烏丸からすま家と公安対神課たいしんか。多分、波留はるさんたちとの話的に鈴埜宮すずのみや家もひかりちゃんを狙っているだろう。であるなら、ひかりちゃんを保護する場所を用意する必要がある。私たちが泊まっているホテルもあるがあれは烏丸からすま家の息がかかっているから連れて行くわけにもいかない。そうなると、先輩の倉庫は絶好の隠れ家となるだろう。であれば、ここで追手が襲い掛かってくる可能性もあるこの場所にいるよりも、そこに連れて行ってもらう方がいいだろう。

「先輩、今からその部屋に行くことって...」

 そう私が言葉を紡ごうとした瞬間、草葉が揺れ、土砂を踏みしめる音が一段、また一段と大きく、そして近く聞こえる。

 全員の意識がそちらに向いた瞬間、エメラルドグリーンのような色をした髪色をし、紫色に鈍く輝く瞳をした女性が現れる。そして、先輩が驚いた口調で言う。

奈穂なほ、さん...。どうして、ここに...?」

 その言葉に対して、彼女は瞳にさらなる明るさを灯し、静けさを纏った言葉で言う。

「ここで...、そいつ。話はそのあとだ...。」

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