第33話 八咫烏は見ている - その2

 屋敷の中は思ったよりも現代的モダンな様相であり、言うなれば和と洋のハイブリットと言うべきだろうか。少なくともここ数年で建てられたのであろう様相であった。やはり何か裏がありそうなものだが、決定的な何かはやっぱりない。地理的に『元々城とかが建ててあって...』と言うわけでもないとなると、一から建てたとしてあのサイズの庭園に対してこの家屋と言うのは不釣り合いな気がしてならないな...。

「靴はこちらでお脱ぎください。それでは、最初に書斎として使っております風の間からお通しさせていただきます。」

 玄関に入ると、道が二手に分かれ正面方向には襖に花や月、鳥と言った模様が刷られており、それぞれ『花鳥風月かちょうふうげつ』の四字熟語になぞらえた部屋があるのだろう。そして、突き当りにも襖があり、そこには三足ミツアシの鴉が刷られていた。

 何かがあるとすればあそこだろうな。じゃあ、善は急げだろう。

「すまないが、庭を観させてもらってもかまわないか?」

 くすのきさんにそう問いかけると、

「えっ、構いませんが...。踏み荒らしたりなどはお辞めになってくださいね。」と驚きながら返答をする。

 その表情には、疑問と驚きが大きい。だが、焦りは感じ取れない。

「ああ。流石にこの絶景を壊すような真似はしないさ。」

 そう軽口をたたきながら、ここまでの道のりを遡っていく。すると、後ろから追いかけるように足音が聞こえ、そして扉を締める音を挟んでから音が近づき後ろでピタリと止まる。

「レイちゃん、こっちお庭じゃないよね?」

「ああ、色々疑問に思ったが至極単純な解答に気付いたんだ。だからその問いの答え合わせをしようと思ってね。」

「疑問…?それっていったい何なのさ。」

「僕はずっと疑問に思っていたんだ。このサイズの庭、枯山水や松の木と日本庭園として風情があると芸術分野にあまり明るくない僕でもわかる。ただずっと、この庭には少し違和感を感じていた。それは何故かとずっと考えていたんだが、ようやく答えがまとまった。この庭はなんだ。」

「ブラフ…?」

 桃花ももかが眉間にしわを寄せながらその庭園をすぼめ見る。ただ、すぐに脳のキャパシティーが限界に来たのかボフンッと言わんばかりな表情で答えを求めて来ていた。

「もう限界なのか…。どうやって君が僕と同じ大学に入れたのか甚だ疑問だよ、本当に。まあいい、それでその答えなんだがね。」

 そう言いながら僕の行こうとした先に指を指す。

「あっちって、お屋敷...じゃないの?」

「ああ、その屋敷だが少し違う。まず最初に考えたのは、あの蔵の意識を逸らすためと言うこと。主役メインがこの家であるとすると、この蔵は必ず脇役サブになる。ただ、その脇役サブより目立つ名脇役ヒロインがいるのならば...、脇役サブ端役バックスクリーンになり下がる。だから、無理にでも目立たせることにした。違和感を感じる作りにすれば必ずそちらに食いつく。そうすれば答えにたどり着くのは難しくなる。故に、そのに陥る。」

「先入観の落し穴?」

「ああ、さっきの話しだと蔵に何かあると考えるのが至極当然だ。しかし、そう簡単な問題じゃない。先ほどの話は主役メインを屋敷と置いている。つまり、思考から屋敷を無意識的に外すようになっている。これが先入観の落し穴だ。ただ、これに気付くのは難しいだろうね。何故ならば、僕たちは客人としてこの屋敷に招き入れてもらえたわけだ。つまり、僕たちが立ち入ることのできる場所であるからして、未知でない場所となる。したがって、意識的に怪しい場所ではないと認識させられる。これが先入観の先、意識の落し穴に引っかかってしまう訳だ。」

「それで、その落し穴を避けた先に何があるのさ?」

 首を傾げ質問してくる桃花ももかに対して、

「それを調べるのさ。一番気になるのは、あの襖に鴉の絵があった部屋だね。あの絵は文献で調べた記憶に間違いがなければ『八咫烏やたがらす』だろうね。あの合言葉も相まって、とても気になるね。」と言うとため息を吐いて、呆れたように言った。

「興味を持つのはいいと思うけれど、流石にやりすぎだよ。」

「そんな言葉で立ち止まると思っているのかい?」

「・・・。」

 言葉を紡ごうとする桃花ももかの口にその言葉を投げかけると噤んでしまった。

 さてさて、どうやって入るかだ。鬼がでるか蛇が出るか、はたまた鴉が出てくるのか。どちらにせよ、楽しみだ。

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