第32話 八咫烏は見ている - その1
2017年07月20日08時18分 =萌葱町外れ山間=
車を走らせ早20分が経過しただろうか。行けど行けど木々が生い茂る道の先に一軒の立派な邸宅が聳え立っていた。そして、僕たちを出迎えてくれているのだろうか、スーツ姿の女性が入口の門戸で待ち構えていた。
「ようこそ、
「
「ちょ、ちょっとレイちゃん。こっちも自己紹介しておいた方が...。」
「なぁに。話はすでに伝わっているんだ。自己紹介なんざしなくても僕たちの名前ぐらい「いや、レイちゃん。
あれぇ...、僕、言ってなかったっけ?
「レイちゃん...『あれぇ...、僕、言ってなかったっけ?』って感じ、顔に出てるよ。」
「・・・っ、殺してくれ...。」赤面となっているであろう顔を両手で覆う。穴があったら入りたいっ!!
「はぁ...。私は、
「
「フフッ、どうもご丁寧に。こんなところで立たせておくわけにもいきませんので、どうぞついてきてくださいませ。」
そう言うと、彼女は門戸をあけ放つ。門の先にはザ・和と言うべき古めかしい邸宅がそこに聳え立っていた。そして、彼女はザッザッと砂利の道を踏みしめながら僕たちについてくるように視線を送って来る。それを追うように
門戸の中には優美なのであろう大きな枯山水や立派な蔵。そして、規則正しく植えられた数多くの松の木々と想像より一回り小さい立派な和風の邸宅がある。…はっきり言って、
枯山水や切り揃えられた松の木々はどう考えてもその家の雄大さを示すものだ。ここに至るまでに調べたが、確かにこの
元来、屋敷の敷地に松の木を植える理由として、松の木の皮を非常食とするためというものがある。ただし、それは過去の理由だ。この飽食の時代において庭園に植えられる松の木は鑑賞以外の役目はない。
であれば、『この建物が戦国時代から建てられていたとしたら?』確かにそれがあり得るのであれば違和感はあれど疑問を浮かべるにはこじつけレベルだ。ただし、これが
まあ、全体的にどこか嫌な違和感を感じる。少なくとも、この設計をした奴は芸術的センスは無いだろうね。『引き算の美学』という日本文化特有の美術的感覚を持ち合わせていないということだからね。まあ、何事も過剰なのは良くないといったところだろうか。
そう思案を脳内で完結させていると、
「どうしたのだい?そんな、奇怪なものを見るような目をして。」
「いや?まだ恥ずかしがっているのかなって。」
「・・・人を小馬鹿にするのもいい加減にしてくれ。そんなことで立ち止まるような僕ではないのだよ。」
「そっか、それじゃあ考えるだけじゃなくてちゃんとフィールドワークしようね。ただでさえ機械頼りの生活なんだから。」
「うぐっ、まったく痛いところを突いてくるね、君は。まあ、少なくとも移動のほぼ全てを機械に頼っていないだけ先輩よりましだと考えてくれると嬉しいんだがなぁ。」
「お二人とも、仲がよろしいんですね。」
僕たちの会話に割り込むように
意識をそちらに向けると既に僕たちは建物にたどり着いていたようだ。結構な距離があるな。
「では、今から各部屋をご案内させていただきます。気になる点がありましたらどうぞご申しつけください。」
そう言って、彼女は玄関口の扉を開いた。
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