悩める少女のバレンタイン〈当日〉

 昨日は張り切っていたけど、やっぱり緊張するぅ〜〜!

 私って不器用なんだな……。


「ペア組んで〜。隣いないやつは移動〜」


 どうしよ!

 もし砂糖と塩を間違えてたら……。

 ……チョコから手作りじゃないからそれはないか……。

 でも一個くらい味見しといたほうが良かったか〜!?

 ちょっとしか作ってないしな……。


「ねぇ」

「にゃっ!?」


 飛び上がって横を見ると魁糖くん。


「ごめん……」

「いやいいけどぉ……」


 にゃ、だってよ……。

 なんて声出してんだ〜!

 私が……背後に……回られた……。

 ペアワークが始まったこと、気づかなかった……。


「今日、どこに行けばいいの?」

「そ、そういえば……」


 そういえば考えてなかった……!

 学校でその話ししたくなかったけど、全部私が悪い……!


「ふ、藤棚がある……公民館で……」

「り、了解」

「で、ででで何を話すの? ペアワーク」

「ペアワーク終わりー」


 反省します。

 精進します。

 私がおどおどしてるせいで本題に一切触れないままペアワークが終わってしまった……。


「じゃ、じゃぁ放課後……」

「おう……」


 魁糖くんはそのまま自分の席へ戻っていく。

 その後、私が指名され、一つも分からなかったというのは細かい話だろう。

(私にとっては細かくない!)


 ◇


「おっす」

「にゃっ!?」

「二回目」


 やーめーてー!

 恥ずかしいの!

 んぇ……。

 自分の羞恥心を早く捨ててチョコを渡そうとする気持ち半分、勇気が出ない気持ち半分。

 私が迷っている間も談笑は進んでいるようだ。

 なにか変なこと言っていないだろうか。

 会話の方に意識が行ってない。


「えっと……これ……」


 やっと会話に意識が戻ったと思ったら、魁糖くんから差し出されるキャンディ。

 …………?

 ヤバい……話を聞いていなかった……!


「ほ、ほら! バレンタインって本来男の人から渡すイベントらしいし! せっかくこの日に会うことになったからには用意しないとな…って思って。あぁ、お返しとかいらないから!」

「あ、ありがとう……」


 とりあえず受け取る。

 こ、ここは私も出すべきなのか……!?


「よ、よかったら……ば、バレンタインに渡すキャンディの意味……調べてみて……」

「あ、うん……」


 バレンタインに渡すキャンディ……。

 なかなか珍しいと思うんだけど。

 帰ったら調べてみよう。


「あぁじれったい! やっぱり自分の口から言う!」

「え?」

「b、ば、バレンタインに渡すキャンディの意味は……あ、あなたの事が……好き」

「え?」


(思考停止中)

(now loading)

(……………)

 ……え?


「ごめん! やっぱ今のナシ! 手作りじゃなくてゴメンな!」


 こんな時まで不器用な私じゃいけない!

 勇気を出せ! 私!


「私からも! はいっ。チョコ!」

「あ、ありが……とう……」

「……バレンタインチョコの意味は……あ、あなたと……同じ……気持ち。昨日、『友達の誘い』って言ってくれたでしょ。私、それに対して同じ気持ちのつもりだった。けど今は違う……! 私もあなたのことが好き!」


 恥ずかしくて堪らない。

 でも、そんな私とはオサラバしなければならないのだ。


 ユー・アー・マイ・バレンタイン。

 私の心に灯った言葉。

 魁糖くんに教えてもらった言葉。

『あなたは私の特別な人』という意味だそうだ。


 もどかしい感情は、甘いチョコに溶けて消えたんだ。

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ユー・アー・マイ・バレンタイン 音心みら👒 @negokoromira

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