第2話 家庭の始まり

まひるは、12年前に結婚をした。32のときだ。

31のときに、子供を堕ろした。

不倫の挙げ句の結末だった。

子供ができれば、結婚をしてもらえると浅はかな考えでいた。

ところが、松岡は「誰の子かも分からない、そんな子供の責任なんてとるつもりはない、今まで4年付き合ってきた、その詫びだ」と言い、200万円の入った封筒を渡してきて関係は終わった。

悲しく虚しかったが、どこかで覚悟はしていた。


松岡はまひるの上司だった。まひるは松岡の命令で経費を誤魔化していた。関係が3年が過ぎたあたりから、誤魔化す経費の額が増え、出張の回数も倍以上になった。

恐らく他に女ができたのであろう。と予測はできた。まひると付き合い出した初めのころも同じように、出張先で落ち合うのが定番だった。

下手に妬いたり、詮索すれば、嫌われるのは分かっていた。

何とか繋ぎ止める方法はないかと考えたのは、妊娠だった。松岡には、子供がいなかった。口には出さずとも本心では子供が欲しいと思っているに違いないと信じていた。

あえなく作戦は失敗に終わった。


仕事を辞めようか、仕返しに松岡を訴えようかとも考え出した頃、ひとりの男性が優しく接してくれた。

名古屋から転勤できた、後の夫になる吉川だった。

吉川は、4才の女の子を育てるシングルファーザーだった。

東京には知り合いや友達、親類もおらず、慣れない環境に苦労している様子だった。

そんな吉川を心配してか、まひるが吉川のサポートをすることになった。その部署で一番長く在籍していたのはまひるだったからだ。

吉川が異動してきてから数ヶ月経った頃、いつもお世話になっている、お礼だと言い食事に誘ってくれた。

その食事に、娘の亜由美も連れてきた。亜由美は初めは戸惑っていたが、何度か食事に行くうちに、亜由美は少しずつ、打ち解けてきた。

ある時、娘の亜由美が熱をだしたが、大事な会議があって仕事を休むことができないというので、まひるが代わりに面倒をみることになった。その時から亜由美とまひるの距離は縮まり、懐いてくれるようになった。


それから3人で、ディズニーランドや、ドライブに行ったりするようになった。

家族と縁のなかった、まひるには、少しくすぐったいような幸せがあった。

そんな関係が1年続いた頃、一緒に住まないか?と言われた。

そして、籍を入れることになった。


吉川は所謂パッとしない男だが、優しく真面目な性格が好印象だったし、他に良い男が見つかるとも思えなかったので、結婚を決めた。


結婚した当初は、亜由美の良い母、吉川の良い妻になろうと張り切っていた。

だが、12年も経つと、その頃の気持ちは消え、毎日の生活に追われ、名ばかりの家族は少しずつ冷えてきたように思う。


だから、門田に惹かれたというのか?


門田は、「僕の気持ちは伝えてあるよ。後はまひるさんの気持ち次第だ」と言い、もう一度、濃厚なキスをしてきた。

まひるは全身に力が入らなくなっているというのに、身体は熱くなっていく自分に気づいた。そして門田のキスに応えるように、舌を絡め、門田の背中に手を回していた。

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まひるの蜜 うらし またろう @teketeke0306

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