まひるの蜜
うらし またろう
第1話 壊れ行く家庭
まひるは走っていた。季節は春を向かえているが、まだ肌寒く冬物のコートを着ている。走ると汗ばみ、春物のコートでもよかったかもと若干後悔した。
時計をみると、午前1時より少し前だ。
住宅街を抜けるとある川沿いの公園の駐車場に、門田の車は止まっていた。
本当にいた。
まひるは、思わず笑みがこぼれた。
でも本当は怖かった、これから始まるであろう、踏み越えてはいけない危険な道に進むことを。
周りに誰もいないことを確認すると、まひるは門田の車に近づき、深呼吸して助手席のドアをノックした。
すると、ロックが外れる音がし、内側から押されて、ドアが少し開いた。
まひるが乗り込むと、「やっぱり来てくれた」と門田は満面の笑みを浮かべると、そのまま、まひるのキスをしてきた。
濃厚なキスに、まひるの身体は力が入らず、高揚し始めた。
このまま、されるままになりたいと感じながらも、我に帰り、門田の身体を突き放し、「そんなつもりで来たんじゃないの、きちんと話をしなくてはいけないと思ったから」と門田の目を見て真剣な眼差しで訴えた。
まひるの心境が変化しだしたのは、3カ月くらい前だ。
決定的になったのは、娘との関係からだった。
娘の亜由美は、昨年の春で高校生になった。亜由美は、中学3年の途中から引きこもりになった。小さい頃から自己主張の下手な子であったから、心配はしていた。
亜由美は高校は行きたくないと言っていたが、どんな学校でもいいから高校は出て欲しいと、まひるが懇願した。
まひるは高校を出ていない。
同じ苦労を亜由美にはさせたくなかった。
結局、亜由美は高校に進学してくれ、1年生の頃は友達もでき、機嫌よく通っていた。
ところが、高校1年の終わり頃に、高校を辞めると言い出した。
理由を聞いても答えない。
何度も聞くうちに、
「てめぇのせいで人生狂わされた、私は高校なんて行くつもりはなかったのに、無理矢理行かされた」と涙ながらに、まひるに喰ってかかってきた。
「親に向かって、なんてことを言うの!私は亜由美のことを思ってしたことなのよ」と言うと
「あんた、私の本当の親じゃないだろ?血も繋がってないのに、母親面すんな!あんたのこと、母親だなんて、思ったこと一度もない!」
と言われた。
その言葉から、まひるの中で何が音をたてて壊れていくような気がした。
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