天国を夢見て
星降
無題
手を銃の形にしてその人差し指を自分の頭に当てると、目の前の相手も全く同じ仕草をする。ただ、違うのは相手が持っているのは本物の銃であるということだ。
相手の人差し指が銃の引き金にかかる。首元を注視してくるその顔は恐怖で引きつっており、口からは「どうして」という言葉が漏れた。
その疑問は当然のものだろうが、あいにく命令は絶対なのだ。
さらに相手の口が動く。
「まさか、お前は、」
その先の言葉が出てこない様子を見て、静かに笑った。そりゃあ驚くだろう。歴代最強、神話のような存在が目の前に立っているのだから。
「ばん」
そう自分が言うと、相手は銃口を己の頭に押し付けたまま引き金を引いた。鈍い音が響き、壁に赤黒い液体が飛び散る。
床から立ち上る生暖かい血の匂いに吐き気を感じ、思わず口元を手で押さえた。
大丈夫、きっとすぐに慣れる。
目の前の死体を見下ろしたまま、頬に飛んできた返り血を拭った。ぬるりとした感覚に虫唾が走る。
――他の人間がこないうちに、目的を達成しなければ。
今しがた自分が殺した警備員の制服の胸ポケットから鍵を取り出し、死体に背を向ける。
気が遠くなるほどの昔から自分が必死で積み上げてきたものが正しいのかなんて、そんなことはわからない。どれだけ足掻いたって希望は見えないし、報われるかどうかなんて知らない。
――それでも前へ、進まなければ。
真っ赤に染まった自分の手を見つめ、握った拳にグッと力を込める。
人を殺した。その他の大罪も犯した。もう数えきれないほどに。
そんな自分が地獄に堕ちる覚悟なんて、とうの前から決めている。
それでも、何としても。
「きみのための道は、悪魔に魂を売ってでも拓かせる」
人はみな、自分にしか見えない地獄を背負っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます