ギャップ彼氏は今日も私を愛しまくる
シバコ
第1話 仕事モード
ーーここは
パソコンのタイピング音と、書類をめくる音が響くオフィスの一角で、私は今日も黙々と仕事をしている。
私、
右隣には同期の
菜穂美はマイペースに仕事を進めるタイプだけど、私たちのチームはそうもいかない。私は彼に指示を出しながら、二人で一つの案件に取り組んでいるのだ。
とはいえ……隣を見ると、春輝は相変わらず眉間にシワを寄せて、険しい顔で仕事をしていた。
「……そんなに怖い顔しなくてもいいんじゃない?」
思わずぼそっと呟いたけど、彼は気づいた様子もなく、黙々とペンを走らせている。
ぱっちりとした二重、くっきりとした涙袋、通った鼻筋……普通にイケメンなのに、なぜそんな怖い顔をするのか。
本人曰く、どんな仕事も真剣に取り組むからこそ、自然とこういう顔になるらしい。
「乾くん、午後一で取引先の吉川商事との打ち合わせだからね。」
私は春輝に声をかける。
彼は書類から顔を上げずに、冷たく返事をした。
「わかっています、犬飼先輩。」
……冷たい。
いつもながら、この冷たさ。
彼は仕事モードに入ると、私に対して完全に「上司と部下」の距離感を守る。プライベートではあんなに甘えてくるのに、仕事中は徹底してドライ。
そして、これが彼の「仕事モード」なのだ。
私が何を言おうと、しっかりと報告・連絡・相談をしてくるし、仕事に抜かりがない。ミスもほとんどない。だから文句をつける隙もない。
だけど、やっぱり……腹が立つ!
「この資料を準備しなきゃだよ?他に忘れ物もないようにね。」
「問題ありません。既に準備しておきましたので。犬飼先輩こそ、忘れ物しないようにしてくださいね。恥かきたくないんで。」
「……はいはい、ご忠告どうもありがとう。てか先輩なめんな。」
私は心の中で深くため息をついた。
そんな私を見て、右隣の菜穂美がニヤニヤしながら話しかけてきた。
「來未、相変わらずギャップにお疲れ気味だね〜。乾くんのその態度、やっぱりプライベートと全然違うんでしょ?」
「うっ……菜穂美、黙ってて。」
「いや〜、だって気になるじゃん!仕事中はこんなに冷たいのに、家ではめちゃくちゃ甘えん坊なんでしょ?」
「……。」
私は何も言わずに、無言で菜穂美を睨んだ。
すると、彼女はさらに悪ノリして、楽しそうに続ける。
「ねぇねぇ、1回くらい見てみたいな〜。甘えん坊春輝くん。」
「絶対に見せないから。」
私は即答した。
そんな姿、誰にも見せるわけがない。
菜穂美は肩をすくめて、ニヤニヤしながら言った。
「ふーん、まぁいいけど。でもさ、來未、そのギャップがしんどいなら……もう会社でも甘やかしちゃえば?」
「できるわけないでしょ!?」
私は思わず声を上げる。
すると、隣の春輝が眉をひそめて私をちらりと見た。
「犬飼先輩、大きな声を出さないでください。集中できません。」
「……はいはい、ごめんなさいね。」
私は再びため息をついた。
これが、私と春輝の「仕事モード」の関係。
でも、こんな風にギャップに悩まされながらも、私は彼とのこの関係が嫌いじゃない。むしろ、嫌いになれない。
ーー彼は今日も家では私だけに別の顔を見せるのだ。
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