第8話 暴走する怪力



深夜のオフィス。残業を終えた真奈は、エレベーターに乗り込んだ。


「あら、真奈さん?」


声の主は人事部長。かつて美容部長と共に、真奈の左遷を決めた一人だ。


「お疲れ様です」


その瞬間だった。真奈の体が、制御を失ったように震え始めた。筋肉が膨張し、スーツが軋むような音を立てる。


「真奈...さん?」


人事部長の声が震えている。目の前で真奈の姿が変貌していく。メタリックな光を放つ目。鋼鉄のように隆起する筋肉。そして、まるでプロレスラーのような巨大な体格。


「うっ...!」


真奈は必死に抑え込もうとした。だが、体が勝手に動き出す。拳が、エレベーターの壁を貫通した。金属が悲鳴を上げるような音。


「や、やめて...!」


人事部長が隅に縮こまる。その恐怖に歪んだ顔を見た瞬間、真奈の中で何かが切れた。


「これが、あなたの望んだ"異動"よ」


真奈の声は、もはや人間のものではなかった。拳が人事部長に向かって突き出される。


その瞬間、エレベーターが急停止。真奈は我に返った。


人事部長は気を失い、床に崩れ落ちている。幸い、致命的な攻撃は避けられた。


「私...何を」


鏡に映る自分の姿は、まるでリングの凶獣のよう。そして、その目は異様な輝きを放っていた。


「まだ足りないわ」


耳元で囁く声。それは、化粧品の意思なのか、それとも真奈自身の欲望なのか。


もはや、区別がつかなくなっていた。

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