第4話 破滅の美


「部長、お時間よろしいでしょうか」


夜のオフィス。残業で疲れた美容部長の前に、真奈が立っていた。その姿は、蛍光灯の下で不自然なまでに輝いている。


「真奈さん...何か用?」


美容部長の声が震える。この数日、彼女は真奈の言葉に逆らえなくなっていた。まるで意思を支配されたように。


「ご退職の件について、ご相談に」


真奈の唇が、ゆっくりと歪む。


「え?私、退職なんて...」


「そうですか?でも、先ほど人事には既に申請が...」


真奈の黄金の瞳が、美容部長を捉えた。その瞬間、部長の瞳から光が消えた。


「そう...私、退職するんでした...」


人形のような声で呟く美容部長。彼女の影が、壁に映る真奈の巨大な影の前で、みるみる小さくなっていく。


「そうよ。あなたは、全財産を慈善事業に寄付して、遠くへ行くの」


「全財産を...遠くへ...」


真奈は勝ち誇ったように微笑んだ。完璧な復讐。これこそが、女神の力。


しかし。


トイレで吐き気を催した時、真奈は気づいた。鏡に映る自分の姿が、透けて見えることに。


そして、記憶の中の空白が、さらに広がっていた。自分が美容部長に何を命じたのか、もう思い出せない。


ただ、黄金の瞳だけが、いつもより強く輝いている。そこに映るのは、もはや人間の魂ではなかった。


「これでいいの?」


問いかける声が、真奈のものだとは思えなかった。それは、どこか別の存在の声のように響いた。


鏡の中で、真奈の影が大きく歪む。そこに浮かび上がったのは、翼と角を持つ巨大な存在。古代の神々の姿。


そして、真奈の心の中で、かすかな笑い声が響いた。それは、あの店員の声にも似ていた。

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