第7話 家族と共に
次の日の昼、俺は少し名残惜しさを感じながらも、家に帰ることに決めた。零士さんの家で過ごした時間は、まるで夢のようで、リラックスできた反面、心の中にふわっとした不安も残っていた。でも、兄弟たちのことが気になっていたから、早めに帰ることにした。
「もう少し、ゆっくりしてもいいけどな」と零士さんが言った。少し寂しげな声に、俺は振り返りながら微笑んだ。
「うん、でも兄弟たちの様子が気になるんだ。今日は帰るよ」
「そうか……じゃあ、送っていくよ」と、零士さんはそう言って、すぐに車を準備してくれた。
車内での会話はいつも通り穏やかで、でもどこか言葉にできない距離感があるように感じていた。それでも、気を使わずにリラックスできる時間を過ごすことができた。
家に着くと、待っていたのは賑やかな兄弟たちだった。
「おかえり! 陽兄! 寂しかったよ!」と、末っ子の心が駆け寄ってきて、俺に抱きついてきた。
「心、もうちょっと大きくなったら、さすがに抱きつくのも恥ずかしくないか?」と、俺は軽く言いながら、弟をそっと抱きしめ返した。
「おじさん、だれー?」と、妹の彩が突然、目を輝かせながら零士さんを見つめた。
「おい、零士さんはまだ、25歳だから」と、俺は少し苦笑いしながら訂正した。
「いいよ、このぐらいの子からみたらおじさんだから」と、零士さんは照れくさそうに笑った。
その微笑みを見て、俺の胸の中に温かな感情が広がった。零士さんが家族の前でも、自然に振る舞ってくれていることが嬉しいような、少し安心するような気持ちになった。
「よかったら、お昼ご飯食べていきませんか?」と、杏が零士さん声をかけた。悠が零士さんのことは家族に説明しておいてくれたみたいだ。
「いや、遠慮しておくよ」と、零士さんが控えめに答えた。
「零士さんには感謝していますし、お話もしたいので、迷惑でなければ食べていってください」と、悠が言った。その言葉に零士さんは少し驚いた顔をし、静かに頷いた。
「そうか? ならいただくことにしよう」と、零士さんは笑いながら答えた。
「じゃあ、すぐに作るね」と、俺は当然のように言ったが、杏がすぐに手を挙げて言った。
「私が作るから、陽介はゆっくりしててね」
杏の言葉には優しさと少しの緊張が感じられた。普段はあまり料理をしない杏が、ここまで言ってくれるのは珍しいことだ。
「あ、ありがと……」と、思わず言葉を漏らしながら、俺は少し驚いて見守った。よく見ると、杏の手に絆創膏が貼られていることに気がついた。
「杏、手、大丈夫?」と、俺が心配そうに尋ねると、杏は恥ずかしそうに笑って言った。
「うん、大丈夫。昨日ちょっと切っちゃって……でも、全然大丈夫だから気にしないで」
その言葉を聞いて、胸が温かくなった。杏が頑張ってくれていることが嬉しくて、ふと心の中で感謝の気持ちが湧いてきた。
「ありがとう、杏」と、俺はただその一言を言うしかなかった。
その後、みんなで食卓を囲んで、賑やかな昼食が始まった。零士さんも、最初は少し気を使いながらも、次第にみんなと打ち解け、リラックスしている様子が見て取れた。
「なんだか、家族っていいな」
俺はふと、心の中で呟いた。零士さんが微笑んだその顔を見て、少しだけ自分の気持ちが落ち着いたような気がした。
食事が終わった後、悠と零士さんが少しだけ話をしているのを見て、俺はその隙に杏と話をしてみることにした。
「気持ちはありがたいけど、怪我も心配だし、あんまり無理するなよ?」と、俺は声をかけた。
「うん、ほんとに大したことないよ。これからは私が料理するんだから」と、杏は微笑みながら答えたが、その目には少し心配の色が浮かんでいるように感じた。
「そっか、でも、もし何かあったら絶対言ってよ?」と、俺は杏の成長に感動しながら優しく言った。
「うん、ありがとう」と、杏は静かに頷いた。
その後、零士さんと悠が少しだけ真剣な顔で話をしている姿を見て、俺はその場を離れ、心の中で自分に言い聞かせた。家族というものは、ただ一緒に過ごすだけでなく、お互いを思いやることだ。零士さんも、そうやって俺の家族たちと少しずつ向き合ってくれているのだろう。
その瞬間、俺は少しだけ、零士さんとの関係に確信を持てた気がした。今後も、少しずつお互いにとって大切な存在になっていけるような気がしてきた。
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