桜と謎と。
時田柚樹
第1話 (桜咲く♡アオハル編)
気になってはいたのよ。気には。
ちょっと前、下駄箱に入っていた空色の封筒。
中身は紙一枚。
封筒に合った淡い同系色の和紙。
楷書体の文字。
【花を見る心はよそに隔たりて
身を付きたるは君が面影】
「なにこれ」
見た瞬間に出た言葉だけど、ファーストリアクションは間違っていなかったはず。
宛先も差出人も書いてない。
ほっといたら誰かしらのアクションあるかなと思っていたけど、なにもないし。
そろそろ本気で取り組むべきね。
これが何かは、当然ながらすでに調べている。こういうものは早々に意味を知ることが大事。初動捜査は基本中の基本。
図書室に行って調べるのもいいけど、今回はピンポイントでサクッと指一本。
その結果、これは、西行の桜恋歌であることがわかった。
平安時代から鎌倉時代にかけて生きていた人。
名前は聞いたことがあるけど、お坊さんなのかなくらいにしか思っていなかった。
この和歌の意味は、
『桜を見る心は自分から離れていて、自分に残っているのはあなたの面影です』
というものらしい。
「ねぇ、夕実(ゆみ)。相談っていうか、ちょっといいかな?」
放課後、部活に行く前の友人を捕まえて聞いてみた。
「これって、なんだと思う?」
「んー? 珍しいね。楓(かえで)が疑問をあたしに聞くのって」
きゅるんとした瞳でこちらを向いた夕実は、楽しそうに笑った。
「そう?」
「うん。だってミス・マープルじゃん。あ、わかった! ふふーん。あたしをハイドン役にするのね! 任せて!」
「それを言うなら、ワトソンだけど。全然あっていないよね」
夕実のそれは、『吹奏楽部だからね』ってだけじゃ追いつけないボケだよ。
ちなみに私は、ミステリ研究会所属。ミス・マープルと名乗っている。
「どれどれ。えー、なにこれ? 意味不なんだけどー。まじウケるw。 てか、ちょい待って。逆に一周回って、ありきち三平?」
「夕実の中で流行っていたギャルごっこ復活? ワトソン役はどうしたのよ」
真面目に考えてくれる気はなさそう。
「あたしには難しいわ。どう見ても、古典だし? あたし、文系じゃないしー」
「ん、もぅ」
とは言え、他の人の話を聞いて頭を整理したいのだから、付き合ってもらう。
夕実も、さすがは親友。わかっていて付き合ってくれる。
そんな友人に甘え、消せるボールペンで書いたメモを見ながら丁寧に説明をした。
「西行っていう人の和歌らしいんだ。意味はね……」
「ほー。え、待って。それって、ラブレターじゃん? んー、でも、そんなイケオジみたいな人、この学校にいたかなぁ。文系の人なら普通に書けるもん?」
そうかぁ。これがラブレターというものだったのか。恋の歌だし、そう意図があるかもしれないとは、ちょびっとだけ思いもしたけど。
あまりにも縁がなくて、除外しかけていた。
となると。まずは容疑者を挙げてみるか。
「じゃあ、怪しいっていうか、それっぽい人、考えてみるね」
ちょっとワクワクしてきたかも。
「まず、第一の容疑者から……」
「容疑者って、殺人犯みたい。さっすが、ミス研ねぇ」
「容疑者って言い方がそうかもしれないけど、雰囲気を出すためよ。犯人探しには違いないんだから」
「うんうん。ミステリっぽーい」
夕実は勘違いをしている。別に、殺人だけがミステリではない。私的には、殺人のないコージーミステリだって好きなのだから。
もっと良さをアピールしていかなきゃだわ。
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