第12話 お姉ちゃん

 シャワーを浴びる前に、舞白の髪の毛を切り揃える。

 本当だったら、免許がないと人の髪の毛を切ってはいけない。

 それは知っているけれども。本当の姉妹だと思えば、良いでしょ。本人から許可だってもらっているわけだし。


 鏡越しに舞白を見ると、ジトッとした目でこちらを見てくる。


「なんか、千鶴。いやらしい目で見てるよね……? やめてよね」


「そんなわけないでしょ。髪の毛の具合を見てるの。ちゃんと切れてるかどうかって」


 右と左と揃っていなかったり、全体的なバランスも整えないと、「誰かに無理やり切られてしまった」と勘違いされてしまうかもしれないし。


「これでいいんじゃないかな?」


 鏡の前には、ショートヘアに整えられた舞白が出来上がった。

 風呂の椅子に座って、膝に手を置き姿勢を正す舞白。右へ左へと顔を動かす。


「うん、良さそうな感じ。ありがと」


「まあ、私の手にかかれば、こんなもんだよ!」


 得意気に胸を張ってみる。私にもこんな才能があったんだね。こういう道もいいのかもしれないね。

 舞白が立ち上がってこちらを向いてくる。


「千鶴、交代だよ。今度は私が切ってあげるから座って」

「ほぇ? あぁそっか。私も切ってもらわないとなのか……」


 とりあえず言われるまま私は椅子へと座る。舞白に任せちゃっていいのかっていう不安は少しあるけれども。


「私と同じ髪型にするからね」


「そうだね。周りの人から髪切ったことをツッコまれたら、『姉妹で仲良くショートヘアにしたんだ』って言えるようにだよね」


 そうすれば、多少切り方が汚くてもバレる心配はないだろう。

 真剣な顔で、舞白は私の髪を切りそろえてくれる。舞白はこんな真面目な顔もできるんだね。


 やっぱり黙っていると、少し可愛いかもしれない……。



 切り終わると、どことなく私と舞白は似ているような気がしてきた。


「これで、私たちは仲良し姉妹だね!」


「……うん」


 切り揃えたことで、さっきよりも可愛くなったと思うのだけれども、舞白は俯いて元気がなさそうな顔をしているように見えた。


「どうしたの。私とお揃いじゃ、いやなの?」


「そんなことはない。……けど、私のせいで、せっかくの髪の毛が短くなっちゃったなって……」


 舞白は、また同じようなことを言って、泣きそうな顔をする。舞白って本当は打たれ弱い子なのかもしれないな。そうだからこそ、周りに強くあたって自分が傷つかないようにガードしているのかもしれない。

 そんな姿は、妹らしくて可愛いと少し思ってしまう。

 どれが本当の舞白かわからないけれども、私は舞白を落ち着かせようと思い、抱き着いた。


「大丈夫だよ。私は舞白との思い出ができたことの方が嬉しいよ」


「なにそれ……。なんで出会って一日しかないような私に……」


 これでわかってくれないんだな、舞白は。まだまだ子供ってことかもしれない。

 私は舞白の瞳を見つめながら言う。


「時間じゃないんだよ。私は舞白のこと好きだよ」


 もちろん姉妹として。

 妹と同じ髪型にするのって憧れだったけど、姉にはお願いできないことだって思う。妹だから、髪型を合わせてあげられるっていうのもあるし。姉妹で髪型がお揃いって、やっぱりいいし。


 よくよく考えれば舞白は最高の妹だって思ったりもする。

 私の周りの友達からも可愛がられていたようだし、大人しくしてれば可愛いって私だって思う。

 思ったよりも歳が離れていたから子供っぽく扱うところもあったけれども、立派な私の妹だ。

 こういう妹が欲しかったって思えた。


 だから、私は舞白が好き。



「私のことは、本当のお姉さんだと思っていいからね。どんどん甘えて来な?」


 再度、私は舞白を抱きしめる。


「……うん。千鶴お姉ちゃん。…………だいすき」


 最後の方は小声でなにを言っているか聞こえなかったけれども。舞白は私のことをお姉ちゃんって言ってくれた。これぞ、姉妹だ。

 抱きしめている腕に力を入れて、もっと強く抱きしめる。


「舞白、好きだよ!」

「うぅ……。苦しいよ……。うぅ……、ただでさえ平らな胸なんだからさ……。弾力がないこと、ちゃんとわかってよ……」



「……はぁ?」


 思わず、腕の力を抜いて舞白を離した。舞白の顔を見て見ると、恥ずかしそうにしながらも、ちょっと憎たらしい顔をしているように見えた。


「まな板を擦り付けられたら、誰だって痛いでしょ。頭にも栄養いってないの? それって、巨乳だけの特権だと思ってたんだけど」


「おいおい、舞白。お姉ちゃんに向かってなんて口の聞き方してるんだよーーっ!!」


 舞白を掴んで、腋からお腹周りをくすぐる。


「あはは、やっぱりさ。ツルペタな人は、姉って認めたくないかも! 私の方が胸大きいし。何歳下の妹に負けてるの? ははは!」


 こいつ、やっぱりただの生意気なガキだ。

 少しでも良い妹だと思ってしまった私がバカだったかもしれない。


「……ふざけるなよーーっ!!」


 私の方が背が高いので、シャワーを手に持つと、上の方から浴びせてやった。


「どうだどうだ。届かないだろー! ちびちーび!」


「冷たっ!! ツルペタが何を言うんだよーーーっ!!」

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