第3話 同じ部屋?!

「さぁ、寮の中へ入ってオリエンテーションをしましょう!」

「はいっ!」


 北大路さんの掛け声に対して、新入生たちが返事をする。礼儀正しい新入生たちは返事も良い。ハキハキとした中にも、お姉様方を敬う気持ちがきちんと表れている。素直で可愛いというのは、とても良いことだと思う。


 それに比べて雪野舞白はというと、終始ふてくされたような顔をしている。北大路さんの話を聞いていないのか、ずっと腕を組んでそっぽを向いているし。


 新入生が寮の中へ入っていく中、一人取り残されそうになっていたが、柊お姉様が舞白に声をかけた。


「舞白さんでしたっけ。大丈夫ですよ、すぐにみんな打ち解けると思いますので、一緒に行きましょう」

「あぁーっ?」


 眼を付けるように柊お姉様を睨んでいる。

 何て奴なんだと思ったが、柊お姉様の方が上手であった。舞白の手を取ると優しく微笑みかける。


「こわい事なんて無いから、大丈夫ですよ。なにかあったら私に相談してくれていいですからね!」

「……ういっす」


 柊お姉様の容姿をあんな間近で見て、手まで握られて。照れない方がおかしいだろう。舞白の頬は少し赤らめていた。

 先ほどまで暴れていた野生の猫が、飼い猫に成り下がったみたい。


 生意気そうなやつだけれども、案外素直な性格なのかもしれないな。ここの寮にいれば、少しでも性格は改善していくのかな。


 柊お姉様に連れられて行く舞白から、ふっと笑顔がこぼれた。ムスッとした顔からは考えられないくらい可愛い笑顔。その横顔を、なぜだか私は見つめ続けてしまっていた。


「千鶴さん、ボケっとしてないで私たちも行きましょう?」

「あ、はい! すいません」



 ◇



 寮の中に入って、北大路さんを中心としたオリエンテーションが進められた。


 ホールに集められた新入生に対して、バイオリンやチェロの演奏を行う。

 お姉様たちは、弦楽器の演奏だって一流だ。この学園は音楽学校というわけでは無いのだけれども、それに匹敵するくらいの技術を有する生徒が多い。この学園出身のオーケストラメンバーもいるくらい。


 綺麗な音色がホールに響く。そんな演奏をうっとりしながら聞き入る新入生たち。

 一方で、舞白はやはりムスッとした顔をしていた。


 先ほどなだめてくれた柊お姉様も演奏の方へ混じっているため、誰も触れることだ出来ず放っておかれたままだ。


 気付いた私がなだめれば良いのかもしれないが、入学式前に喧嘩したこともあって、何もしゃべりかけないでいたいと思ってしまう。


「……こんなこと、時間の無駄だし」



 舞白からそんな声が聞こえた気がした。

 私はそんな舞白を眺めていた。



 ◇



 演奏が終わり、オリエンテーションも一通り終わると、北大路さんが舞白へと近寄っていった。


「舞白さんは、体調でも悪いのかな? オリエンテーション中も顔色が悪かったようだけれども」

「んっ? そんなことないです」


 確かにそうだろう。体調が悪いというよりも、演奏やらオリエンテーション自体に興味が無いというとこだと思う。自分でも言っていたし。

 飛び級で上がってきたのは良いにしても、まるで品が無い。舞白はどうしてこの学園に来たのだろうか。こういうお嬢様らしい催しに全く興味が無さそうなのに……。


「新入生がどの部屋になるのか発表しようと思っていただけれども、先に部屋へと行ってもらう方が良いかもしれないですね」

「ういっす。そうしたいっす」


 相変わらずガラの悪い返事だ。



「そうしたら、白川さん。舞白さんを部屋へ案内してくださいますか? あなたと一緒の部屋になる子です。」

「へっ!?」


 いきなりのご指名に、変な声が出てしまった。


 いや、舞白が寮にいること自体は受け入れつつあるけれども、私と同じ部屋……?

 私が憧れていた妹は、舞白っていうわけ……?


 頭の中が半分混乱していると、舞白がこちらへと振り向いた。


「あぁー! こいつ、私のことバカにしてきた奴じゃんか!!」


「ふ……、ふふふ……。そんなこと、ありましたかしら……? 少し口が悪いのではないかしら……。?」



「あれ? もしかすると、二人って知り合いなのかしら?」


 北大路さんが驚いた顔で私たちを見て来た。


「知り合いと言いますか。ねぇ?」

「お前と一緒の部屋なのかよ、はぁー……、さっきのお姉さんが良かったのにな」


「なんでため息つくのよ! 失礼でしょっ!」


 不躾な対応にムカッときてしまったが、北大路さんの前で取り乱せないな。

 一呼吸おいて、自分を落ち着かせる。



「ふぅーーー……。大丈夫ですわ、任せてください北大路お姉様。舞白さん、それでは私たちの部屋へ行きましょう?」


 お姉様たちに微笑みながら、手を振ってその場を後にする。

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