宇宙エレベーターを魔改造した超大型電磁砲で月のスペースコロニーをぶち抜く話
戯 一樹
第1話 星間問題
西暦2XXX年──かつて夢物語と思われた
人類はこの
おかげで地球における人口増加問題、食糧危機や資源の枯渇問題なども解消されたが、それによって新たな問題が発生していた。
その新たな問題とは、それぞれの惑星で独立を宣言してしまった事による制宙権、並びに衛星及び小惑星の所有権をめぐって、度々諍いが勃発している件である。
中でも、地球連邦政府が現状最も頭を抱えているのが──
「また月独立派による過激テロですか……」
地球の某国──とある巨大地下ホテル内での事だった。
広大なフロアの中心に置かれた円卓にて、数人の男女が揃いも揃って渋面になりながら顔を見合わせていた。
「これで何度目でしょうかねぇ。
そう溜め息混じりに漏らしたのは、白髪が目立つ中年のふくよかな男性だった。
「民間人にも被害が……それこそ死者も度々出ていますし、いい加減どうにかしないと、連邦政府に対する不満が溜まる一方ですよ」
「そうは言ってもねぇ、ジョージ」
と、中年男性もといジョージに応えたのは、対面にいる赤髪の熟年女性だ。
「現状、彼らを掃討するのは極めて困難よ。何せ、月にいるほとんどの民が月の独立派を支持しているんだから。さすがに地球市民を狙った無差別テロに関しては難色を示している人もいるようだけれど、それでも少数派……今後も過激派に尽力する月の民が大勢いる限り、地球連邦軍も強行手段には出れないでしょ。月側が治安部隊を出して鎮圧してくれるのなら別なんでしょうけれど。そのへん、どうなのかしらジルベーン?」
「おいおいキャシー、俺を一体なんだと思っているんだ?」
赤髪の熟年女性──キャシーからの問いかけに、ジルベーンと呼ばれた褐色の黒髪男性は、肩を竦めながら苦笑を浮かべた。
「俺はただの科学者だぜ? 確かに月にも技術協力はしているが、年に一回あっちに出向く程度だし、それ以外は地球からのリモートワークがほとんどさ。俺の研究所は地球にしかないからな」
「でも、何も知らないわけじゃないんでしょう? ジルベーンは月の軍事にも関与しているって話を聞いた事があるわよ」
「アドバイザーとしてちょっと助言している程度に過ぎないぜ? 月の中枢にまで関わっているわけじゃない。むしろ地球連邦軍の上層部であるジョージや、その支持母体であるホワイトアース社の代表取締役であるキャシーの方が、色々何か知ってそうな気がするがな?」
「あたしが知るわけないじゃない。あたしはただの大手企業の社長に過ぎないんだから。ま、ジョージは別かもしれないけれど」
「そこで私に振らないでくださいよ」
額から流れる汗をハンカチで拭いながら、ジョージは言う。
「ただまあキャシーさんの言う通り、掃討は極めて難しいと言わざるをえませんね。月の機関も及び腰の状態ですから。いや、あれはもはや黙認していると言うべきか。もっとも表面上は対応しているように見せているので、こちらもなかなか強行手段を取るわけにはいかないんですよ」
「死者が出ているのにか?」
「死者が出ていても、です」
ジルベーンの問いに、ジョージは渋面になりながらも毅然と答える。
「ここで連邦政府が軍を出すような真似をしたら、他の星から何を言われたらか……。なんせこっちは惑星間平和条約を提唱している側ですからね。ここで独立を求めている星に軍を差し向けでもしたら、一気に不信感が増してしまいますよ」
「だからって、このまま泣き寝入りするつもりか? やられっぱなしだと、その内地球でも暴動が起きかねないぜ?」
「だから連邦政府も頭を抱えているのよ。理想としては月側が本腰を入れてテロ組織を殲滅してくれるのが一番だけれど、それは望み薄だし。連邦政府が報復措置に出ようものなら、さっきジョージが言ったみたいに惑星間の均衡が崩れかねないし。それだけじゃなく月の民によるテロがますます過激化する可能性もあるしね」
「なんだそれ。まるで八方塞がりじゃねぇか」
と、テーブルの上で頬杖を付きながらジルベーンは語を継ぐ。
「もういっその事、月の独立を認めるのはどうだ? でないと、いずれ宇宙船やコロニーどころか、地球上で無差別テロを起こしかねないぜ?」
「それも一理あるわね。色々問題はありそうだけど、ジョージ、実際のところどうなのかしら?」
「独立を認めるのはかなり難しいでしょうねぇ。単純に地球連邦の制宙権が狭くなるという問題もありますが、今後月に行く時や、月を経由して他の惑星に行く際にこれまでなかった申請手続きなどが発生する可能性がありますから。そうなると観光業はもちろん、貿易関係も打撃は免れませんよ。もしも星間通行料が発生しようものなら、その分、運賃料もかさ増しになるわけですからね」
「だからって人の命には代えられないだろ? そりゃまあ、経済的には痛いだろうけど」
「地球だけの問題に収まりませんよ。他の星だって月を経由して地球に訪れる時に同じ手続きが必要になるかもしれないのですから。仮に月を経由せずに地球に来たとしても、遠回りする分、時間や燃料費もかかりますし。もしくは月が公転して地球の裏側に行った瞬間を狙うか」
まあ時間に余裕がある時にしか使えない方法ですがと汗を拭いながら言葉を紡いだジョージに、キャシーがふと手を挙げる。
「
「それは危険過ぎるな」
そう答えたのは、科学者であるジルベーンだ。
「簡単に
で、問題はここからだ。通常、
「ああ、言いたい事はわかったわ。地球の周りはスペースデブリばかりだものね」
「そういう事。安全面を考えたら、到底取れない手段ってわけだ」
「連邦政府もデブリ処理はかねてより行っているのですが、なんせ百年余りも各国から排出され続けたものなので……」
つまり取り除くにも数が多過ぎて、未だ完全除去には程遠いというわけだ。
「通行問題は解決に至らず、か。どうにもならんな、これは」
「一応言っておくと、問題はそこだけじゃないんですよ。今後月側がどれだけ制宙権を主張──銀河法である程度定まってはいますが──してくるかわかりませんし、地球を嫌っている月の民も多いので、独自に軍を持つようになったら、こちらにとっては最も身近な脅威となりえます」
「軍事力では地球の方に分があるのにか?」
「確かに戦力的には勝っていますが、それだけで戦争をふっかけてこないとは限りませんからねぇ。科学力に関しては月も地球に負けておりませんからから」
「この俺も多少なりとも協力しているしな」
「あんたはどっちの味方なのよ、ジルベーン」
「強いていうなら自分に利のある方だな。まあ安心しろよ。今のところ地球を裏切るつもりは微塵もねぇから」
故郷が火の海になるのはさすがに胸が痛むしな、と飄々とした態度で語るジルベーンに、キャシーは嘆息とともに肩を竦めた。
「またふりだしに戻ってしまったわね」
「結局、現状維持しかないってわけか?」
「現状維持なんていつまでも続けられませんよ。先ほども言いましたが、このままでは月独立派のテロも過激化していく一方。地球にいる民だっていつ報復攻撃に出るか……一部の国ではすでにデモだけでは収まらず暴徒化している地域もあるそうですから」
そこまで会話したところで、誰からともなく不意に沈黙が下りる。
平行線ばかり辿る月の独立問題た過激テロ問題なとに、皆一様にしてすっかり解決策が見出せないといった雰囲気になっていた。
「すみません。遅れました」
と、その時一人の青年が正面入口から入ってきた。
金髪碧眼の更新中。着ているスーツも上物で、およそ一般人とは思えない風体だった。
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