プロローグ2

 ナミが巫女寮みこりょうを創設してから間もなく、彼女は召使いの巫女たちを連れて国内の視察をしていた。


 村と村の間の森の中を歩いている時だった。


 そこで驚くべき光景を目にした。


 ナミたちの視線の先、少し離れた場所に十歳ほどの少女たちがいた。


 一人は栗色の髪で手ぶらで何も持っていない。


 もう一人は黒髪ロングでどこで手に入れたのか銅矛を持っていた。


 栗色の髪の少女と黒髪ロングの少女が猪と対峙している。


 猪が突進してくる。


 ナミたちは助けようと術を発動させようとしたが、それよりも早く栗色の髪の少女が呪力を用いて猪に炎を浴びせかけた。


 しかし猪の勢いが止まらない。


「やばっ!?」


 黒髪ロングの少女が焦って言った。


「大丈夫」


 栗色の髪の娘が言う。


 彼女は再び術を発動させた。


 猪が何もないとこで突然なにかにぶつかったように跳ね返った。よく見ると薄い硝子のような色の帳があった。結界術だ。


「ツキ!」


「了解!」


 ツキと呼ばれた黒髪ロングの少女が銅矛で巨大猪の急所を一突きした。


 猪がズッドーーン!! という地響きを立てて地面へ倒れた。


 ナミはパチパチと拍手した。


「見事ですね」


「お姉さん、誰?」


 ナミの賞賛にツキが問う。


「わたくしはこのヤマト国の女王ナミです」


「その女王様がなんでこんなところにいるの?」


「ちょっとした散歩です」


 ツキの問いにナミは答えた。


「噓ね」


 しかし、栗色の髪の少女がナミの顔を見て言った。


「なんでそう思うの?」


「なんとなく」


「さっきの見事な術と同じ能力ですか?」


「違うわ」


「そうなのですか?」


「うん、あたしは呪術以外に人の表情、声のトーンとかでその人がどんなことを考えてるかとかもわかるの」


「なんて多才な……何を考えてるかまでわるのですか?」


「細かいことはわからない。でもざっくりとなら。少なくとも女王様はここへ目的があってきた、違う?」


「凄いわね、その通りです」


 素直にナミが答えるとツキが警戒して栗色の髪の少女の前へ出た。


「大丈夫、ツキ」


 だが栗色の髪の少女がツキの肩に手を置いて言った。


「このひとに害意はないから」


「そうなの?」


「うん」


「わかった」


 栗色の髪の少女の言葉にツキは素直に従った。


「わたくしに害意が無いことまでわかるのですか」


「あなたはある目的のために来た、違う?」


「はい、あってます。その目的まではわかるのですか?」


「次期女王候補探しってところ?」


「凄まじい、読みの力ですね。それは呪術?」


「うん」


 ナミの問いに栗色の髪の少女が答えた。


 この時栗色の髪の少女にはナミがどのような目的でここへ来たのか映像となって視えていた。


「そこまでわかってるなら改めて説明するまでもないですね、どうですか我がヤマト国の巫女寮へ入りませんか?」


「ツキも一緒なら構わないわ」


「私もヒナが一緒なら構わない」


「それで問題ありません、ツキさん、ヒナさん」


「あ、名乗るのを忘れてました」


 ナミに言われてヒナが気づいた。


「改めてあた、わたしはヒナです。歳は十歳です。よろしくお願いします」


「はい、よろしくお願いします。それと一人称は変えなくても大丈夫ですよ」


「そうですか、ありがとうございます」


 日菜ヒナはナミに礼を言った。


 ヒナはツキに視線を向けた。次はツキの番だという意味を含めて。


「もう知ってるみたいだしわざわざ言わなくても……」


「駄目、礼儀よ」


「わたくしは別に大丈夫ですよ」


「いえ、そういうわけには……」


「……ツクシです。十歳です」


「あれ、名前ツキじゃなかったのですか?」


「ツキはあたしだけが使ってる愛称なんです」


「ツクシでツキというわけですね」


 ツクシの漢字は月詩と書く。これが短くなってツキとなったわけだ。


 それから月詩と日菜はナミに連れられて親族を伴ってヤマト国の都へ入った。


 巫女寮は女王府の中にある。


 女王府は全体的に男子禁制である。


 それは何故か単純に巫女たちの貞操を守る意味もあるが、倭国のトップである日巫女は神を祀る巫女。ほぼ神様である。つまり倭国一の偶像アイドル偶像アイドルは処女性が求められるのは皆現代人であればお馴染みの感覚であろう。


 話を戻そう。


 月詩と日菜は巫女寮に入った。巫女寮は巫女見習いの少女たちが日巫女の側近または次期日巫女を目指して切磋琢磨している場所だ。しかし、日巫女の側近やそれぞれの神を祀る巫女たちもそんなに多くない。かなり狭き門である。


 多くの巫女が王族や貴族であるのに対し、日菜も月詩も平民出身であった。そんな中でこれから生活していかなければないない。だが日菜も月詩も巫女寮に入らないという選択肢はあり得なかった。

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