豪運の妹を持つ、俺。
「とりあえず、降ろしてくれない?」
妹の持っていた生首が、口を動かした。
「やっぱり生きてやがったか」
妹はアイテムポーチから、何かを取りだした。
俺はその魔導具を見て驚く。
「妹よ、それはどこで手に入れたんだ?」
「姉貴、こいつは消し去らないと面倒なんだ」
妹が手に持った魔道具は、無段階無型魔導具”無”だ。
つまり妹は何も持っていない。
「待て、消すな」
俺は妹の手に、軽く金属塊を撃った。
「いてっ……さすが姉貴、みえているんだね」
「ああ、そうだ。それならば、こいつでも消し去れるだろう。だがな、こいつは試練への道そのものなんだ」
「知ってるよ、それくらい」
「なら、なぜ消そうとする?」
「姉貴はこいつに出された条件をのめるのか?」
「無理だ」
俺は即答した。
「そういうこと。試練へ進むためには、新たな道を生み出すしかないんだよ」
第七段階も門の仕様通りだとすると、魔物であるオネットが消えても、新たなオネットが生み出されるはずだ。
「ねー、もういいかなー、体をくっつけたいんだけどー」
「だまれ、消すぞ」
「おー、こわ」
生首は妹の殺気にビビることなく、へらへらしていた。
「とりあえず、話を聞かせてくれ。新たな道は生まれない可能性がある。その魔導具は道すら”全て”を消し去るからな」
「分かったよ……せっかく捕まえたと思ったんだけどな……」
妹は渋々と、生首を手から落とした。
生首から血管のようなものが伸び、体と繋がる。
そして、一人の少年オネットが再構成された。
「助かったよ。で、僕はこいつを殺してほしいのだけど、でき……」
俺は気づいたらオネットの首を飛ばしていた。
「妹よ、俺が間違っていたかもしれん」
「だよな! さすが姉貴だぜ!」
妹が、再び生首になったオネットに向かって歩き出す。
俺もトドメをさそうと、共に近づいた。
「ちょっと待ちなさいよ!」
急に間に割り込んできたのは、リュゼだ。
「どうした?」
俺は、彼女が今まで静観していたことから、話せない程に疲れていると思っていた。
「いやいやいや! え!? あなたの妹さんなの? 本当に?」
「妹のリス・フォートです。姉がお世話になっております」
「あら、ご丁寧ね。こちらこそお世話に、って違うわ!」
妹のリスは、外面は完璧だ。
元々家系とかに熱心なこともあるから、フォート家として恥の無い振る舞いをしようと努力していた。
「ふーん、この子が義妹ね。よろしく、私のことはお姉さんと呼びなさい」
レーヴがリスを品定めするように見て、テキトーなことを言った。
「レーヴ姉さん、お噂はかねがね伺っています。今後とも姉を、フォート家をよろしくお願いします」
頭を下げ、しっかり媚びを売るリス。
レーヴが第三王女だと知っての行動だ。
我が妹ながら恐ろしい。
「大丈夫よ、すぐ王家に連なることになるわ」
「それはそれは。姉も喜ぶと思います」
「え、先輩も望んでるって!?」
「口では色々言っていると思いますが……」
「おい、冗談もほどほどにしておけ」
テキトーがテキトーを呼び、暴走が始まっていた。
俺は状況を止め、本題に戻す。
「とりあえず、この生首をどうするかだな……オネット、君はなぜリスを狙う」
門は言わばシステムだ、一定のプログラムで出来ている。
「うーん……単純に嫌いだから? かな。門側の思考としては、君の妹みたいな人間が一番困るんだよ」
「どういう意味だ?」
「妹に聞いたら? どうやって
そう言って、オネットはふくれっ面になる。
二回も首を飛ばされて拗ねているようだった。
「確かに不自然だ。妹よ、いつから門の攻略を始めた?」
オネットは、リスが一年はこの第七段階に居ると言っていた。
だが、一年前に俺は妹と会っている。
リスは少し悩み、渋々と説明を始めた。
「俺は姉貴が実家に帰ってきた後、すぐに挑戦者になったんだ」
「そうか……」
俺と違い、妹のリスには戦闘の才能がなかった。
というのも、もはやそれが才能と言ってもいいレベルで不器用だったのだ。
それでも、強さに対する憧れは誰よりもあった。
だから、俺は妹が挑戦者として門の中にいる事実を不思議と受け入れていた。
「実家を飛び出して、そのまま門に入った。俺だって上手くいくと思ってなかった。第一段階から地道に魔導具を集め、強くなろうと思っていたんだよ……」
そこでリスは言い淀んだ。
手に持った”無”を見つめている。
「姉貴、俺は運が良いんだ、自分でも怖いぐらいに……」
妹が落ち込んでいた。
俺は察した。
「いや、運も実力の内だ。リスの努力は、俺が一番知っている」
妹の頭を俺は撫でてあげる。
試練を乗り越えた時の報酬はランダムだ。
だから、各段階で当たりと外れがある。
リスは各段階で最高の魔導具を手に入れ続け、ついには最後まで辿り着いたのだろう。
「それを実力とされたら、僕たちが困るんだよな~」
転がっていた生首が、呆れた声で話す。
「運は運だ、世界の全ては確率で出来ている。それを否定するのか?」
「はぁ……」
大きな溜め息をつくオネット。
「確かに門内部は平等だよ。僕でさえ報酬については干渉できないからね。だけど、超強い魔導具を易々と手に入れられると、内容が薄くなってしまうじゃないか。門は第六と第七段階を除いて、周回してもらうように設計されているの!」
「そうか……何かゲームみたいだな」
「つまり、君の妹みたいな豪運の持ち主がいるせいで、ここが一気につまらなくなるんだよ! 特にそれ!」
オネットがリスの手に目線を向けた。
「それ、今まで何回使った?」
そして質問をする。
「数えてなんかない」
妹は知らん顔だ。
使い慣れている所を見ると、かなりの回数であることは確かだろう。
「もー! 本当に困るなー!」
そんな様子の妹に、オネットはさらに怒った。
「私には何もみえない。リュゼはどう?」
「会話から判断すると、あれは”無”という名の魔導具ですね。それは使用者にしか認識できない。私も知識でしか知らなかった……」
レーヴの疑問に、リュゼがしっかり答える。
彼女たちの声音が軟化しているのを見ると、仲はマシになっているようだ。
「それは極極極低確率で全試練から報酬として排出される、いわゆる隠しアイテムなんだよ! 門の理に干渉することも可能だから、本当に遊び要素みたいなものだったんだ! しかも、使用の度に二分の一で壊れるようになっているのに、のに……それなのに、こいつは何回も使いおって! あー、イライラしてきたー」
オネットは自分から設定をペラペラと話し始めた。
彼は生首なのに地団太を踏んでいる音がする。
どんなゲームも結局は運ゲーだ。
その点で言えば、妹は最強なのかもしれない。
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