閉ざされた山
虎の人
1話 奇襲!
ーー自衛隊と米軍による合同演習ーー
それは小銃にバトラー装着して、対ゲリラを想定したよくある訓練。
バトラーとは、小銃に装着して実弾の代わりにレーザーを照射し、被弾したかの判断を音で伝える装置。
ーー時刻は2330時ーー
虎
「次の歩哨は朝方か……少し早いけど仮眠しとくかな」
《歩哨とは、陣地を敵の侵入から守るため前方に設けられた
虎 士長は一通り装具の点検を終えると、簡易ベッドに横たわり仮眠につこうとした。
その時
「敵襲ーーーーーー!!」
仮眠しようとしていたところを邪魔された事に苛立ちを感じながらも
(俺が歩哨の時じゃなくてよかったぁ、
と思いつつ、武器装具を手にとって班長である神山1曹の元へ。
班長は虎士長に気づくと
「今歩哨立ってるの誰だ」
と、いつものように威厳のある口調で虎士長に問うと
彼はピンっと背筋を伸ばしながら
「たしか矢部2曹と三島3曹です!」
と答える。
すると班長の顔が鬼のような形相へ変わり
「たしかとはなんだ! はっきりせんか! 殺すぞ!」
「矢部2曹と三島3曹です!」
「よし!」
準備しながら班長の指示を待っていると、奥の天幕から井浦2曹と、松木士長の2名も出てくる。
みなで円陣を作りしゃがみ込み、班長が無線で歩哨から状況を聞く。
「矢部2曹そちらの状況送れ」
「目視で敵4! いやそれ以上かもしれません囲まれつつあります!」
班長は、矢部2曹から状況を聞くと
「井浦 2曹と松木 士長は矢部 2曹の元へ、虎士長は俺と来い」
「りょっ!!」
みな、指示通りの位置へ行動する。
班長と虎 士長が向かったのは、歩哨の位置から左後方に僅か離れたところにある、小さな高台の林の中。
側面へ回り込もうとする
いつも神山班長は自分でこういう事をしたがる。
そして、毎回のように虎士長を連れて行くのだから、またか……と思いつつも体は命令に正直だ。
いつもの様に高台の林の中に伏せ、狙いやすい位置に着く。
息を殺し顔に虫がついても身動きせず敵を待ち続ける。
案の定ゲリコマは前方の林から現れ、歩哨のいる側面を攻撃しようとしていた。
班長は静かに虎士長へ
「迂回してきた敵は2、じゅうぶんに引き付け確実に全滅させろ。俺は左をやる」
「了」
彼は静かに答えると小銃の
そして確実にヤれる、目の前わずか10mまで引き付け班長の合図を待つ。
「(3……2……1……)」
そして撃つ
「ピーーーーーーーー」
バトラーの戦死を伝える音が2つ小さく鳴る。
敵2名の戦死判定を確認し、周囲の安全を確認した班長は身を乗り出し。
「よしそのまま回り込む!ついてこい!」
虎士長も体を起こし、返事をしようとしたところで歩哨の更に右手方向から
「ゔああぁーーーーっ! あ"あ"あ"あ"あ"ぁっ!! っういやああぁーーーーっ!!」
断末魔のような悲鳴が聞こえた……
「くそっ!! ちくしょうっ!! ちくしょう!! あああ"あ"ぁっ!」
あまりの異様な断末魔に、虎士長は起き上がろうとしていたところで体のバランスを崩し、転びながら班長の顔を見た。
(えっ? 事故……?)
「班長……これ井浦2曹……の声ですか? 何事です!?」
「……やつはもう助からない、いくぞ!」
「えっ……?」
班長はいたって真面目な顔でそう答えた。
虎士長は、配属当初こそ神山班長に振り回されていたが、神山班長は中隊でも優秀で有名な陸曹である。
ついていけば間違いないのだ!
そう思うことで、いつのまにか心の中で疑問に思っても自分の中で折り合いをつけ、取り敢えず命令指示通り動くようになっていた。
もう脳みそがそういう風に訓練されていたのだ。
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