第12話
結婚の報告と同時に妊娠を発表した聡美は、周囲からの協力もあって安定期に入るまで休職することになった。
いずれ産休を取るつもりではいたが、なるべくならギリギリまで働きたい。
ブランクを開けるのが怖かったのだ。
産休明けや育休明けに出てきた同僚も数人いたが、やはりブランクがあると戦力からは外されがちだ。
それに、何かあれば早退を余儀なくされる。
申し訳なさから、前線に戻してくれとは言えないのだろう。
自分も、そんな扱いをされるようになるんだろうか……
朝、尾高を送り出してから、1人部屋の中でぼんやりとする。
内輪で簡単な式を挙げただけで、披露宴はしなかった。
つわりが思いのほか重く、横になってばかりいる。
体調が落ち着いたら、友人だけの披露パーティーをしようと話していた。
本当は着たかったドレスがあったのだが――大きなおなかでは着れるドレスも限られてしまう。
新婚旅行にも行けない。
産んでからやればいい。
そう思うが、実際産んだ友人が「産んだら何もできない」と苦笑していたことを思い出して、聡美は正直絶望していた。
(しょうがないよね……今は我慢するしか)
聡美は横になったまま、スマホを手にした。
あれから。
例の更新通知は来ていない。
少し落ち着いたので、聡美は再びブログサイトを閲覧するようになっていた。
あのブログも一応検索してみたが、なぜか見つからなかった。
アカウントを消したのだろうか?
聡美は、新しく見つけた猫のブログを見てgoodボタンを押した。
可愛らしい仔猫の画像を見て癒されていると、ふいにキュロンという通知音がして、聡美はギョッとした。
「え?」
【今日の出来事】が、更新されました――というお知らせが、表示される。
「――」
聡美は、息を飲んだ。
先程、検索した時は出てこなかったのに……
アカウント名は1woIhのまま。変わっていない。
(どうしよう……)
見ずにそのまま無視することもできた。
なのに――なぜか気になって、聡美はブログを開いた。
『ここは居心地がいい。けど、それはきっと今だけだよね。分かってるんだ。そんなこと』
黄色いススキの穂が揺れている画像。
新しい職場にでも移ったのだろうか?
少し落ち着いたような雰囲気だった。
恐らく。この人は行く先々でイジメにでも遭っているのだろう。
なんらかの問題を抱えているのだろうが、それでも一所懸命やっていこうとしているのかもしれない。
(私、なんであんなに不快に感じたんだろう……)
妊娠初期の体調不良が情緒を不安定にさせていたのだろう。
些細なことに敏感だったのも、きっとそのせいに違いないと思い、聡美は申し訳なくなってgoodボタンを押した。
彼女も辛いが頑張っている。
自分もつわりでシンドイが、頑張ろう……
スマホを手にしたまま、眠りに落ちた聡美の手の中で、キュロンという通知音が鳴る。
画面に小さなメッセージが出る。
――【今日の出来事】がお気に入り登録されました――
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