第29話

「本当にレイナ殿は達観していて優しい。ジュライトが長年惚れていた理由も良くわかる」

「え? 長年ですか?」

「私の口から告げることではないだろうな。おっと、先ほどの暗い話とは別に、もうひとつ報告があるのだよ」


 今度はニコニコとしているベルフレッド国王陛下。

 私も気が楽になり、椅子に深くよりかかった。


「マリアの、男が苦手という性格も治癒魔法で治してくれたのだろう? 大変感謝しているよ」

「いえ、それはマリア様本人が努力した結果ですよ。私の魔法は使っていません」

「そうなのか? マリアはレイナ殿のことをずっと話しておったからそうだとばかり。だが、レイナ殿が協力し克服させたということだな?」

「いえいえ。本当にマリア様が頑張っていただけです。私は一緒にいただけですから」


 マリア様は努力家で一生懸命だ。治癒施設でも彼女自身が変わらなきゃと自ら言っていたし、トーマスさんとの練習でも逃げずに頑張っていた。

 私もまた、マリア様に魅かれている。


「キッカケはレイナ殿だろう。実はな、マリア自らが婚約を前提にと話をしてくれたのだよ。マリアは過去に辛い思いをさせてしまった。ゆえに婚約者もその気になったら自由にさせていたから、自ら申し出てくれて嬉しいのだよ」


 ベルフレッド国王陛下が嬉しそうに語る。

 私も喜んで聞いていた。


「相手はベットム男爵のところの三男、ベラード=ベットムだよ。彼もまた、国を大きく発展してくれる一人だと思っておる。いずれグレスグレイス王国に和食という健康的かつ味も良き素晴らしい食文化を広めてくれることだろう」

「ベットムさんを王宮に招待すると言っていましたが、そういうことだったのですね」

「あぁ。と、まあ王家の人間が選ぶ婚約者も今のご時世ならあり得るのだよ。レイナ殿も心配せんで良い」


 お父様は常に口にしていた。『昔の貴族社会はこうだった~、今が緩すぎるから変えるのだ』と。

 私は世間知らずだから口にする資格なんてないが、温かみがあって優しい人たちが多い世の中というイメージが強い気がする。

 これからも、ベルフレッド国王陛下の優しさについていきたい。


「散々政略的なことばかり述べたがの、ここからは私の独り言だ。親として嬉しいのだよ。マリアが幸せそうに彼のことを話してくることが。きっとジュライトもレイナ殿のことを損得勘定でなど選んでおらぬよ」

「お気遣い、そして温かいお言葉をありがとうございます」


 立ち上がって深くお辞儀をした。

 そのとき、応接室の外からバタバタと走っている足音が聞こえてきて、ドアが開く。


「叔父様! 申し訳ございません。私用で出かけていました」

「いやいや、構わぬよ。対談の予約もなく飛び込みで来たわけだし」


 ジュライト様が帰ってきた。

 ちょうど私が深々とお辞儀をしているタイミングだったため、大変驚かれている。


「レイナがまたなにか素晴らしいことをされたのですか?」

「いえ、お礼を言っていただけですよ」

「レイナ殿が律儀で温情があり、達観していると褒めていたところだ。緊急で伝えることがあったからお邪魔しているよ」


「例の件ですか?」

「それもあるが、レイナ殿が令嬢でなくなったという話だ」

「そうでしたか」


 ジュライト様はこの会話だけでなにがあったのか理解したようで、慌てながら私のすぐ隣に座り、手をギュッと握ってきた。

 私の心臓の鼓動が一気に上がる。


「どんなことがあろうとも、私はレイナと一緒に歩んでいきますからね」

「あわわわ……」

「レイナのことですからね……。破門になったから公爵邸に迷惑がかかるなどと心配していたことでしょう。全くその心配はいりませんからね! 全員レイナの味方ですから!」


 ジュライト様は私の心の中を読めるような無属性魔法を持っているんじゃないのか。

 それくらいに私の心情を読まれているようで、むしろ嬉しかった。


「例の件もレイナに話されたのですか?」

「立場上平等に喋らなければならないのが辛いところだ。私の病が完全に治ったから、本腰を入れて今まで見過ごしてしまっていた悪徳貴族を潰す動きを始めているとだけ伝えておこうか」


 それだけで、なにをしようとしているのかはなんとなく理解できた。

 だが……。


「……アルミアはどうなってしまうのでしょうか?」


 散々ワガママを言い放題やり放題で公爵邸や格店、ベットムさんにも迷惑がかかっていた。

 温情など出してはいけないのかもしれないし、すでに私はファルアーヌの人間ではない。

 しかし、それでも妹だと心のどこかでは思っている。

 主に両親の甘やかしでワガママになっていったのだから、今から改善を徹底すればアルミアだけは助かるのではないだろうか。


 そう思ってしまっているのだ。

 ベルフレッド国王陛下が頬を掻きながら悩んでいる。


「彼女次第としか言えぬよ」

「そうですか……」

「だが、まだ親の元から離れていない子。救済措置としてしっかりとチャンスを与えておる」

「ありがとうございます」

「レイナ殿はお人好しでもあるのだな。ひいきにならない程度に対応を考えるとしよう……」


 アルミアが良い方向に変わってくれれば万々歳だ。

 だが、王族の力も借りてもどうにもならなかったら、その時は私も諦めるしかないだろう。


 長い対談も終え、ベルフレッド国王陛下は帰られた。


 ジュライト様と私の二人だけになったと思ったら、今度は両手をギュッと握られてしまった。


「今日はどうしても外でお連れしたい場所があります。どうか一緒に来ていただけますか?」


 この時間に外出のお誘い。

 いったいなんなのだろう。

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