第28話

「急にすまんな」

「どうされたのですか!? ジュライト様は外出中ですがお待ちになられますか?」

「今日はレイナ殿に話があって来たのだよ。とても大事な話だ」

「え……?」


 ベルフレッド国王陛下が真剣な顔つきになっていたため、私は身構えた。

 ただでさえ国王ともあろうお方がわざわざ訪ねてきたのだ。よほど重要なことなのだろう。

 ひとまず応接室へご案内し、ベルフレッド国王陛下に着席していただいた。


 さすがに執事も使用人たちも緊張した雰囲気が出ている。

 私もゆっくりと椅子に腰掛け、話を聞く体制になる。


「さて、結論から先に告げよう。レイナ=ファルアーヌはレイナとなった」

「ほへ?」

「つまり、ファルアーヌ子爵の子ではなくなったのだよ」

「あぁ……なるほど」


 お父様もお母様も私のことはゴミ扱いだったし、いつかはそうなるんじゃないかとは思っていた。

 緊張していた気持ちだったが、むしろ落ち着きを取り戻したくらいだ。


「驚かないのかね……?」

「むしろやっと解放された……という気持ちです」

「そうか。いや、私のところに報告が入ったときも、ファルアーヌ子爵のところはいつかこうなると思っておった」


 グレスグレイス王国は、王族貴族とは言ってもそれぞれの任務さえやっていれば自由が尊重されている。

 お父様は国からの任務はしっかりとしていたそうだし、ベルフレッド国王陛下であっても家のことに関与することはできないはず。

 あくまで傍観者として見るしかできない。そうでないと、平等性が失われてしまうから。

 貴族の人間が学ぶ本に、そう記載されていた。


「レイナ殿はファルアーヌ子爵の長女だったろう。だが夜会などにも出ることが全くなく、代わりに妹のアルミアだったか? 彼女ばかりが目立っておった。レイナ殿の学力筆記は首位だったにも関わらず、公に姿を現さないのはなにかあると思っていたのだよ」

「外出が禁止されていましたので……」

「レイナ殿の逃げ場を完全に詰めていたということか。あの子爵め……。全ての条件が噛み合ってしまい今まで関与することができなかった。深く詫びたい」


 ベルフレッド国王陛下がまさかの頭を下げて謝罪してきた。


「いえいえいえいえ! とんでもございません! 頭をあげてください」

「すまない。決してなにも知らなかったわけではない。それなのに今まで助けることすらできなかったのだ。深く詫びたい」


 ベルフレッド国王陛下はとにかく忙しい。さらに、治癒魔法をかけていなかった頃はずっと病と戦いながら国務もこなしていただろう。

 ファルアーヌ子爵家のことばかりに構っていられるはずがない。


「気にしないでください。今こうして幸せな日々を送れていますし、治癒施設を用意してくださったのもベルフレッド陛下ですよ」

「そう言ってもらえるとかたじけないと思う。時すでに遅しではあるが、この件においては少々調査も入れておる」

「調査……と言いますと?」

「立場上詳しくは言えぬが、少なくともレイナ殿が今後優位になることは間違いだろう」


 ベルフレッド国王陛下は良いことばかり言ってくれているが、ジュライト様に多大な迷惑をかけてしまっている。

 貴族同士の結婚ではなくなってしまうし、そもそもこの婚約は続けられるのかどうかも気になってしまう。

 だが私はワガママだし、一個人の気持ちとしては、ジュライト様とは離れたくない。

 一緒に住んでみて分かったのだが、ずっとそばにいたいと思うほどジュライト様のことに夢中なのだ。


「ジュライト様との婚約も厳しくなってしまうのでしょうか……?」


 いくら自由婚が主流になってきたとは言え、絶縁された令嬢という肩書きではジュライト様だけでなく、グレス公爵邸全体に絶大な汚名を被せてしまうだろう……。

 私個人の気持ちだけでは迷惑をかけてしまう。


「そこはあまり心配しなくとも良いと思うがね」


 ベルフレッド国王陛下が、むしろそこを気にするのかと言っているような口調で応えてきた。


「まぁレイナ殿が心配する気持ちもわからぬではない。本来であれば王族が平民と婚約することは立場上ありえぬ。だが、例外もあるのだよ」

「例外?」

「簡単に言えば国に絶大な貢献や功績を残した者だな。レイナ殿は非公表とは言え、このグレスグレイス王国を救ってくれている。なにも知らぬ貴族からの目は厳しいかもしれぬが……」


 やはり公爵邸に迷惑はかけてしまうことになるだろう。


「まぁその辺も私が責任を持って動くことにしよう。だから、レイナ殿はジュライトと幸せになると良い」

「そんなに至れり尽くせりよろしいのですか!?」

「当然だよ。元はと言えば私が病気という理由で貴族全体を把握できていなかったからだ。だが、レイナ殿のおかげでそれも変わり、最近では悪事を働いている貴族を取り調べている。むろん、ファルアーヌ子爵もだ。逆にこのタイミングでファルアーヌ子爵から絶縁宣言をしたのはレイナ殿にとってはメリットだろう。責任の一切を被らずに済むのだからな」

「そう言われてみれば……」


 真っ先に浮かんだのが、以前アルミアが高級な店で買い物をしていたであろう情報。

 両親が私への仕打ちだけならまだ良いが、外でもなにかしていたらと思うと恐かった。

 責任追及でそれこそジュライト様との婚約どころの話ではなくなる。


「レイナ殿がそこまで深刻になっているのだから、余程のことがあるのかもしれぬな。引き続き調査を続けるとしよう」


 ベルフレッド国王陛下も優しすぎる。

 私が心配していたことや、気がかりだったことも全て調べてくれていたのかもしれない。

 呼び出しをすれば良いのに、公爵邸まで足を運んでくれた。

 少しでも早く伝えようとしてくれたのだろう。

 ベルフレッド国王陛下は本当に忙しいのに、ここまで親身になってくれることがとても嬉しかった。


「ありがとうございます!」


 ベルフレッド国王陛下はニコリと微笑んだ。

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