機械神編 神となった人間

「ん……んん……ここは?」


 目を覚ますと、見たことがある天井が俺の視界に映った。

 この木の天井……ここは俺が今、寝泊まりしている部屋か。

 俺はベットから起き上がり、窓から外の景色を見る。


 外では燃えた跡の建物を神達が修理していた。


「アキラ!目を覚ましたのね」


 俺の耳に聞き覚えのある声が聞こえた。

 声が聞こえた方向に視線を向けると、そこには水が入った木の桶とタオルを持ったユリーナがいた。

 彼女はホッと安堵した表情で、俺に近付く。


「ユリーナ」

「心配したわ。もう三日も目を覚まさなかったんだから」

「そう…なのか。すまん、心配かけた」

「本当よ。でもよかった、無事で」


 明るく微笑むユリーナ。

 彼女の笑顔を見ると、なぜか胸が温かくなるのを感じる。


「それで……アキラ。目を覚ましたら聞きたいことがあったんだけど」

「な、なに?」


 ユリーナは真剣な表情で、俺に顔を近づけ、尋ねる。


「なんで神になっているの?」

「え?神?俺が?」

「そう。魔法で調べたんだけど……アキラ、あなたは神になっているわ。それもただの神じゃない。最上級の神よ」

「俺が……最上級の神」

「ええ。しかもあなたの神力は測定不能。いくつものスキルを持っているわ」

「スキル?」

「スキル……分かりやすく言うと、特殊能力ね。下級の神は一個しか持っていないんだけど、あなたの場合は十個もあるわ」

「えっと……多いのか?」

「多いってもんじゃない。最上級の神でも四個しか持っていないのに、あなたは十個も持っているのよ。ありえないわ」

「そう……なのか」


 ふむ。彼女の話を聞く限り、俺は神の中で異常のようだ。

 それにしてもスキル……か。

 ファンタジー漫画ではよく聞くが、そういうのがあるんだな。


 俺が色々考えていると、ユリーナは更に顔を近づけて問い詰める。


「隠していないで教えて。いったいあの時……なにがあったの?」

「え、えっと……」


 あの時って……ユリーナを助けようとした時だよな?

 えっと……確か……。


 俺は記憶を思い出しながら話すことにした。


「機械兵に襲われたユリーナを助ける方法を考えていたんだ。その時、胸から光るりんごが現れて……」

「りんご!?今、りんごって言った!?」


 俺の両肩を掴み、大きく目を見開くユリーナ。

 え?なんでそんなに驚いているんだ?


「そう……だけど。この世界ではりんごって珍しいものなのか?」

「珍しいってものじゃないわ。幻の果実よ」

「幻?りんごが?」

「えぇ。りんごは神にありとあらゆる力を与えると言われているわ。でも同時に強力すぎて危険だから禁断の果実と言われてもいたわ」


 確かに旧約聖書の創世記に記されたアダムとイヴの話では、りんごは禁断の果実と言われていたが……ゴットワールドでは強大な力を与える木の実として言い伝えられているらしいな。


「つまりりんごを食べたから俺は神になったのか?」

「そうだと思うけど……でもなんでアキラの胸から現れたのかしら?」

「分からない。けど一つだけ分かることはある」

「それはなに?」

「今の俺に……なにができるかを知ることだ」


 まず神になった俺は、なにができるようになったか知ることだ。

 やはり情報が欲しい。


 今、分かっているのは特殊な道具を生み出せるのと超高速で作業ができることだ。


「ユリーナ。教えてくれ。今、俺が持っているスキルはどんなやつだ?」

「まず一つずつ教えるわ。一個目は速く作業ができる【高速作業こうそくさぎょう】。二個目は製作能力が上昇する【製作上昇せいさくじょうしょう】。三個目は考えることが速くなる【思考加速しこうかそく。四個目が道具を生み出す【道具生成どうぐせいせい】。ここまでは普通の神が持っているスキルと同じ」

「【高速作業】【製作上昇】【思考加速】【道具生成】。どれも使えるものばかり」

「で、ここからが中級か上級の製作系の神しか持っていないスキル。特殊な金属を生み出す【神金属生成しんきんぞくせいせい】。イメージできるものならなんでも生み出せる【神素材生成しんそざいせいせい】。どんなものも完璧に修理できる【完全修理かんぜんしゅうり】。あらゆるものを改造し、強化することができる【強化改造きょうかかいぞう】」

「すごいスキルだな」


 俺は思わず頬を引き攣った。

 どのスキルもチート級。しかも物を作ったり、直したりするものばかり。

 あきらかにと、相性がいいスキルだ。


「そしてここからは……私でも聞いたことがないスキル。最上級の神しか持つことができないスキルよ」

「……いったいどんなやつだ?」

「スキル【神力無限しんりょくむげん】。神力を無限に持つことができる」

「えっと……すごいのか?」

「すごいってもんじゃないわ。スキルを使うには神力を消費するの。アキラは無限の神力を持っているから何度でもスキルを使うことができる」


 なるほど……つまりファンタジーゲームで例えるなら、魔法使いがMPを気にせずに魔法を連発できるということか。


「そしてこれが一番凄いスキル。他の神が聞いたら、絶対にアキラを捕まえようとすると思うわ。最悪、戦争が起きる」


 俺は思わずゴクリと唾を呑み込む。

 いったい……どれほど…やばいスキルなんだ?


「そのスキルの名は?」

「スキルの名は……【神器作成じんぎさくせい】。最強の道具を作ることができる製作系最強スキルよ」

「神…器?」

「神器。常識を覆す最強であり、最悪の神の道具。使い手によって国を救うこともできれば、国を滅ぼすことができる」

「そんなすごい道具を……俺は作れるのか?」

「アキラが作ったものは全部、神器だよ。この道具も」


 ユリーナはポケットから黒い拳銃を取り出す。

 その拳銃は機械兵の腕を分解して、作ったものだ。


「今回、私たちの街を襲ったあの新型機械兵は、上級の神の攻撃を防ぐことができる装甲に覆われていたみたいなの。でも……アキラはこの武器で簡単に倒しちゃった。この意味……分かるわよね?」


 なるほど……ユリーナはこう言いたいのか。


 俺が作った武器は……この世界で最強にして最も危険。


 もし他の神が俺のことを知ったら、絶対に利用しようとするだろう。


「……ユリーナ。俺の力のことを知っている者は?」

「大丈夫。私だけ」

「なるほど……ならよかった」


 ホッと安堵した後、俺はこれからのことを考えた。

 考え、考え、考え続けた。

 そして……あることを思い付く。


「ユリーナ。これからすることが……決まった」

「すること?」

「ああ……それは―――」




「働くことだ」


<><><><>


「働く?なにを言っているの?」

 

 ユリーナはアキラの言っている意味が分からなかった。


「働いて、俺がどういう神か、周りの神にアピールする」

「そんなことをしたらアキラの力がバレちゃうわよ?」

「余計に隠していたら他の神にバレる可能性がある。なら……働いて俺はこういう神ですよっとアピールして他の神達を騙す」


 ユリーナはアキラの考えに素直に驚いた。

 自分の力を他の神に知られないために、隠すのではなく……あえてアピールする。

 その発想はユリーナはなかった。


「でも働くって、どんな仕事を」

「それはもちろん―――」




「物を作って売るんだよ」



 後書き

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