第8話 見渡す限りピンク

 ちらほらと押し寄せる記者の人たち。

 取材への応対をそれなりにこなしてきた僕の毎日はあっという間に過ぎ去っていく。

 冒険者デビューした日から一週してしまった。

 

 この日、なんと昇級条件となるレベル一の魔物、百体討伐を無事達成し、僕は一級冒険者となった。

 とんでもない数のキサールの群れに遭遇したおかげだ。

 今まで付けていた零級用のバッジは返却し、新たなバッジを手にする。

 

 49-1と刻まれている。

 この階級は十二級まで存在し、面白いことに、冒険者ランクっていうものは、ずいぶんと誰にでも登りやすいように設計されている。

 一級、二級、三級と、ご丁寧に目の前に積み上げられているものなのだ。

 とはいえ僕の目には何段とすっ飛ばした先にある高みに敷かれたプロ冒険者の証、八級目からしか映ってはない。

 

 傲慢ごうまんな精神だとは自分でも自覚はしている。

 ただ、つい先日まで僕はプロ剣闘士として働いていたのだ。

 そこらへんのアマチュア冒険者とは一緒くたにされたくはない。

 格が違う。

 

 時刻はまだ昼頃。

 せっかくなので昇級記念に新しい景色を求めることにした。

 レベル二ダンジョン・ピンク草原へ向かう転送装置へと進んだ。

 

 そのダンジョンの青空の下に広がる草原の色は全てがピンク。

 とても綺麗だが、どことなく現実感のなさが付き纏う色合いだ。

 風景に目を奪われていると、さっそく魔物が姿を見せた。

 ゴリラのような体に、長細い青色の体毛が全身を覆っている魔物だ。

 

 ぶわっと毛先が逆立ったかと思うと、瞬く間に青毛の魔物は大きな拳を伸ばしてきた。

 敵の攻撃軌道を読み切った僕はすでにその拳をくぐり、ロングソードの刃を敵の肉を断つために走らせている。

 一撃では仕留めきれなかった。


 僕は足を動かし、敵との間合いを開いた。

 再度、踏み込んで一瞬のうちに敵へ肉薄する。

 ロングソードを振り抜いた。

 真っ二つに青毛の魔物は崩れ落ちた。

 血しぶきが飛び散る。


「岩みたいに硬かったなあ、こいつ」

 

 僕は腰に装着したバッグに丸めて入れてあったパンフレットを手に取った。


「レベル二より上の魔物は魔法を使用してくる、レベル三より上は魔力障壁の操作能力が跳ね上がり毛先一本一本まで……。なるほど、とすると、この魔物はレベル三だったてことかな? 結構、硬かったし」


 魔物の死骸を見下ろしながら笑う。


「流石にでかすぎる。……どの部分を持って帰ろうか」


 浴びた返り血が僕の顔を滴り落ちる。


「ん? でもなんでレベル二のダンジョンにレベル三の魔物が? 待てよ、そういえ

ば少し前もレベル一のダンジョンにレベル二のスケルトンが出て来たんだっけか……?」


 僕は首を傾げた。


 冒険者ギルドの受付で僕は前述の疑問を訊ねた。

 すると低レベルダンジョンのすぐそばに高レベルダンジョンが存在している場合、高レベルダンジョンに生息する魔物が低レベルダンジョンの方で徘徊することが時たまあるのだ、と説明された。

 僕は偶然にもそれに遭遇してしまったようだ。

 レベル三の魔物の死骸は討伐報酬五百コゼニカで引き取ってもらえた。

 まあまあな質の個体だったらしい。


 基本的には、討伐した魔物の属するレベル帯によって一定の報酬額が定まっている。

 その際、同じレベル帯の魔物だとしても報酬額の数字に振れ幅が発生するのは個体の持つ強さや獲れた魔物素材の質の良し悪しの違いによるものだ。

 

 討伐報酬とは、倒した魔物の強さ、と持ち帰った魔物素材の質これらの合計額だ。


 ちなみに創造神アドチヤモンドルが何よりも重視しているのは魔物素材の回収よりも世界の敵である魔物を倒すことだ。

 冒険者ギルドも当然それを意識していた。


 それでも魔物から獲れる素材は防具や武具、色んな道具になったりもするし、創造神の新世界の創造作業にも必要なことだったりする。

 それ以外にも他世界との取引等、様々な用途で魔物素材は使用されることがあるため、できる限り持ち帰らなければならなかった。


 なかでも必須なのは、魔物討伐の証明にもなる魔力核の回収であった。

 魔力核は見た目こそ同様のものに映るが、特殊な道具を使用して検査したり、見る人が見た場合、持ち主であった魔物の名前から強さやレベルまで様々な情報がその魔力核一つだけで判別できてしまうのだ。


 小難しいことかもしれないが、要は全てお金の話をしているのだ。


 

 そうやって都市の冒険者ギルドに所属する冒険者たちが報酬や名誉を求めて魔物討伐を行うことで、その都市内の魔物討伐総数は増加していき、都市の運営サイドは都市運営に必要な補助を、年間の合計討伐総数に応じた報酬として創造神から受けとることが可能なのであった。


 この補助がなければ、宇宙空間に浮かぶいくつもの欠片大地の上でそれぞれが孤島のように存在する一つ一つの都市が今日こんにち、沢山の人間が暮らす巨大都市として栄えることはできなかっただろう。

 言ってしまえば、僕が前まで勤めていた剣闘士という職業はあくまで人類にとっての娯楽であり、対して冒険者は人類存続のために必須な職業であった。


 だけど娯楽もまた人類の生活には必要なものだ。


 僕はもう少し稼ぎたいと思い、ピンク草原へと舞い戻る。

 レベル二を百五十体討伐で二級冒険者へと昇級……先はまだまだ長かった。


  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る