第7話 冒険者の日常
それから数日後、今週の登校日も早、半分を過ぎていた。
放課後となり夕日に染まった街並みに出た僕は今日も冒険者活動へと勤しむ。
転送フロアへ入り、現世を離れ、ダンジョン・キバリール草原の青空の下にやってくる。
太陽の近くを白い雲が漂っていた。
そよ風が通りすぎていく。
終点世界に吹く風などの事象は、様々なダンジョンが絡み合った結果起こるものらしかった。
草原に伸びた土の道を進んでいると、ふと緑のなかに少数の人ざかりができているのが見えた。
「なにかあったんですか?」
気になったので尋ねてみた。
「ファファバ洞窟で遭難した奴が出たみたいでな。高校生くらいの女だとよ」
「それは……」
冒険者になって初日、ちょうどファファバ洞窟の縦穴の前で
「大丈夫なんですか?」
「中で立てこもってたことで全員生き伸びてはいるらしい」
「そうですか。それは良かった」
僕はこの場から離れた。
彼女らに創造神アドチヤモンドルと戦神フェアブレイミの加護がありますように。
気を取り直して僕は草原を歩んだ。
草の中から飛び出してくる魔物を順調に狩り進める。
そうしていると気がついたときにはレベル二ダンジョン・ヤーツアイ森林との境界までやってきてしまっていた。
中に入ってみたい。
そんな気持ちでぐらついた。
だが倒した魔物を籠いっぱいに詰めこんでいる現状、森の中へ足を踏み入れたところで得られる物は少ないだろう。
なによりそろそろ帰路へ着かなければならない時刻だ。
腕時計から目を離し僕は腰バッグからダンジョンコンパスを取り出す。
このコンパスは自分がダンジョンに入った際、通ってきた転送装置のある方向を指し示す。
どうやら転送装置はあっちの方角にあるようだ。
今日のところは、大人しく帰ろう。
そう思った僕だったが、ふと森との境界を踏み越えた先に茂っているキノコの姿を見つけてしまう。
この毒々しい色のキノコは食べても平気な物なのだろうか?
スーパーで見かけたことがあるような……?
駄目だ駄目だ帰ろう。
無駄な寄り道を行う時間はないのだ。
僕は終点世界から帰還した。
換金を終え、冒険者ギルドを出て、夜闇に沈んだ帰り道を急ぐ。
割引された弁当を購入するため、行きつけのスーパーへと立ち寄った。
豚の生姜焼き弁当二つと、後は野菜も少し。
野菜コーナーを歩いていたところ、なんとあの毒々しいキノコを見つけてしまった。
滅茶苦茶安い。
これは買いだな。
そう思い、買い物かごに投入する。
そういえば、と日用品の足りない物を思い出し、色々と店内を見回っていると自宅へ着くころには大分遅くなってしまった。
「ただいま」
「おかえり兄さん。オムライス作っといたんだけど……?」
居間にいた闇弥がそう出迎えてくれた。
「本当か? じゃあこれは明日の朝食行きかな」
豚の生姜焼き弁当を冷蔵庫へしまう。
「そうしてくれると嬉しいかな」
「ただこのキノコは今、焼きたいね」
毒々しいキノコを取り出す。
「ええ……」
闇弥にドン引きされる。
「お、俺は宿題あるから、これで」
そそくさと闇弥は台所から出て行った。
フライパンでキノコを炒め始めると、臭いが立ちこめ出す。
「兄さん、それ臭いんだけど、それ!?」
自室で勉強していたはずの闇弥がわざわざ台所までやってきて苦言を寄こした。
「アッハッハ、いいかい? こういうのは適当に醤油でもぶっかけとけばなんとかなるもんなんだよ?」
僕は醤油をぶちまけた。
呆れ顔で闇弥は自室へと引き返して行った。
手早く完成したキノコ炒めと、弟作のオムライス、さらには作り置きの野菜たっぷり味噌汁やフルーツなどを居間のテーブルに並べ、食す。
テレビからニュース番組が流れていた。
「昨年の全国剣闘士新人闘技大会、三位、二位之陽光郎選手、剣闘士を電撃引退? ……僕じゃん?」
僕はオムライスを頬張る。
「ケチャップがちょっと濃いな。いや、なにもいうまい」
もう一口食べる。
「……ちょっとケチャップの量が惜しいかな? いや、なにもいうまい」
僕はキノコ炒めにも手をつける。
「まあ、こんなもんかな……」
完食した。
「ごちそうさまでした」
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