第5話 怪文書
夜の錦糸町。飲み会帰りで一人歩いていると、不審な女性が自分に近づいてきました。
初めは単なる客引きかと思いましたが、様子が違います。年齢は40代半ばくらい。普通の服装なのに、どこか古めかしい雰囲気があって、髪は一つに結われていました。彼女は周囲を何度も見回し、誰も見ていないことを確認すると、突然私の前に立ち、封筒を差し出しました。
「あなたにこれを渡すように言われました」
そう言って封筒を押し付けると、彼女はそのまま人混みに消えていきました。
家に帰ってから封筒を開けると、古い紙に手書きで書かれた文章が入っていました。文字は丁寧だけど震えているような、そんな筆跡でした。
『受け取った方へ
あなたがこの文書を読んでいるということは、私が選んだ人に正しく届いたということです。
私は今、あなたの立っている場所から200メートルほど離れた雑居ビルの一室にいます。六階、角部屋です。窓から見える景色は変わりました。昔は川が見えたのに。
ここで起きていることを誰かに知ってほしいのです。
三週間前から、夜になると同じ女性が部屋の前を通ります。着物姿で、顔は私の妻にそっくりです。しかし妻は五年前に他界しています。
最初は幻かと思いました。しかし先週から、その女性は立ち止まるようになりました。そして昨日、ドアをノックしました。
怖くて出られません。でも今夜、また来ることを知っています。
この文書を読んだあなたにお願いです。もし明日の朝刊に、錦糸町の雑居ビルでの出来事が載っていたら、どうか警察に「あの人は一人ではなかった」と伝えてください。
そして、夜道で見知らぬ人から何かを受け取らないでください。特に女性からは。
追伸:この文書は明日の正午までに破棄してください。さもないと、次はあなたの家の前に彼女が立つでしょう。』
その夜は眠れませんでした。翌朝、恐る恐る新聞を確認しましたが、錦糸町に関する事件の報道はありませんでした。気味が悪いので正午前に文書を燃やしましたが、あの女性のことは今でも時々思い出します。
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