第3話 送り返されたマネキン
私が3年前に転職して、すぐぐらいの話です。
うちの会社は、定期的に各部署から一人ずつ選出して、日曜に会社周辺の美化活動としてゴミ拾いを行っているんです。私がこの行事に初参加した際、親睦を深めるため6人の先輩社員と昼食を取り、自己紹介がてら怖い話好きだと話したところ、Bさんが「あー、それならAさんのマネキンの話はどう?昔話してくれた、すごく怖いやつ」と水を向けてくれて、Aさんも意気揚々と「あれね、いいよー」と語ってくれた話です。
Aさんのご実家は某県の地方都市にあり、マネキン工場を営んでいたそうです。残念ながらコロナの影響により先日廃業したとのことですが、この話は今から20年ほど前(西暦2000年頃)Aさんが大学進学で東京にいる間、工場で起きた出来事です。
当時、マネキンは基本的に法人向けに販売とリースを行っており、販売先は大手アパレル・服飾系専門学校、リース先はイベント関連会社でした。ただ、個人商店や専門学校の生徒から1体欲しいというお問い合わせもたまに入ることから、信用または紹介があれば買い取り型として販売もひっそりと行っていました。
販売の際には必ず「不要になった場合は市町村の粗大ごみで出すか、費用は掛かりますが弊社にご連絡の上、送ってください。絶対に不法投棄だけはやめてください」と案内していました。というのも、マネキン本体に製造番号や会社名を刻み込んでおり、不法投棄された際に行政からクレームの連絡が来ることが過去にあったそうです。
ただし、個人のお客様はマネキンに愛着を持つのか、ほとんどの方が会社に連絡の上、廃棄費用を振り込んだうえで送り返すことが多かったそうです(むしろ最後はちゃんと綺麗にして送る人も少なくなかったとか)。
そしてとある日のこと。事務方の責任者である課長の山田さんが仕事をしていると、運送業者からマネキン返却の連絡が電話で入りました。通常ならそのまま会社に置いていくだけなのですが、送り主が自社(マネキン工場)の名前であることから、確認の連絡をしてきたそうです。
この段階で山田さんは「あー、費用も払わずに送り返してきた人かな」と感じたそうで、運送業者にも「とりあえず持ってきてください」と返答しました。
しばらくして、人よりも少し大きめの段ボールが届きました。部下の田中さんが伝票を確認すると「やはり発送元の名前は当社ですね。ここ最近、廃棄依頼の連絡もないし廃棄代わりの送り付けでしょうか」
山田さん「まあ、どこかに捨てられるよりはいいよ。昼食を済ませたら、あとで作業するか。」
昼食後、二人で開梱作業を始めると、箱の様子がいつもと違います。かなり厳重に梱包されており、段ボールの下にもう一つ段ボール、そしてプチプチのクッション材で包まれたマネキンと、小さい緩衝材が敷き詰められていました。
「ここまでしておいて連絡なし?」と思いつつ、プチプチを破くと、そこには黒髪のウィッグ、女性の柄物ワンピース、その上にはエプロンを着たマネキンが見えました。通常は素体のままで返却されることが多く、服を着せたままというのは珍しいことです。
プチプチを取り払い、段ボールに入った全身を見ると、まるで母親のようなマネキンが出てきました。マネキンの両手がお腹辺りで組み合わされていたのですが、ちょうどその手の下にエプロンのポケットがあり、少し膨らみがありました。
気になったので山田さんがポケットを探ると、そこには封筒が一つ。そこそこの厚みがあります。
恐る恐る中を取り出すと、一枚の手紙と100万円の札束が3つ…
金額もさることながら、田中さんと一緒に手紙を開くとそこには
「亡くなったので返します」
と一言書かれていました。
二人とも「え?誰が?...このマネキンが????どういうこと???」といろんな考えが脳裏をよぎりましたが、山田さんはすかさず右足を持ち、足裏に刻印された型番を読み上げます。
「田中、この番号の販売先確認して!」
田中さんが販売台帳を遡って確認しますが、この型番は見つかりません。マネキン自体は腕や足など、いくつかの箇所が稼働する新しいタイプで、当時から更に数年前に発売開始した上位タイプでした。少し高めということもあり、それほど台数が出ているわけでもありません。であれば見つからないことはないはず...でも台帳にはありませんでした。
となると、この工場から盗まれたものである可能性が高い。そこにたまたま通りかかったAさんのお父さん、つまり当時の社長を山田さんが見つけ状況を説明。社長はしばらくマネキンを見つめると「服を取ったら、さっさと潰してしまえ。金はなんか美味いものに変えちまうか」と廃棄を命じました。
結局どこの誰が盗み、そして送ってきたのか分からないまま、マネキンは役目を終えました。
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