夏色に輝く君へ
綾音いと
第1話
───あれは、幼稚園に入園したての春だった。
教室の隅でひとり膝を抱えていると、ふたりの男の子が話しかけてきた。
『いっしょにあそぼー』
『あそぼうよー』
お向かいに住んでる
家の前から一緒にバスに乗るし、顔も名前も知ってる。だけどおしゃべりしたことはなかった。
『……
あたしはさっきよりも力を込めて、膝をグッと抱えた。
幼稚園なんてキライだもん。早く帰ってママに会いたいよぉ……。
『お外はおひさまがぽかぽかで気持ちいいよー』
『お空も青くてキレイだよー』
イヤがるあたしを、ふたりは無理矢理連れ出した。
太陽が、とっても眩しかった。
あったかい匂いがした。
おひさまの匂いなんだよって、リクくんが教えてくれた。
ハヤトくんとリクくんの顔もキラキラしていた。
『ユラちゃん鬼ごっこしよう!リクが鬼な!』
『えー、ぼくが鬼ー?』
おひさまの下でふたりと一緒に走り回ったら、すっごく気持ちがよくて……すっごく楽しかった。
幼稚園が。ふたりが。大好きになった。
───あたしにはじめてお友達ができた日。
それからあたしたちは、いつも3人で遊んでいた。
だけど、ちょっと困ったこともある。
『ぼくが結良ちゃんと手をつなぐのー』
『ぼくだってばー』
ふたりはあたしの手を引っ張りあって、よくケンカをするから。
『いたいよぉ……』
そのたびにあたしは泣きべそをかいた。
幼稚園のバスの席も、お弁当を食べるときの席も。
あたしの隣を取り合うふたり。
……どうしてケンカになっちゃうの……?
あたしはいいことを思いついた。
『じゃあ、こっちがハヤトくんで、こっちがリクくん!』
涙をグッとこらえ。左手をハヤトくん、右手をリクくんにさしだす。
……これでもう、ケンカしないよね…?
キョトン、としてそれぞれの手を見つめるハヤトくんとリクくん。
その目がだんだんと輝いて。
『『うん!』』
ふたりは声をそろえてニッコリ笑った。
『こっちの手はぼくのだね!』
『じゃあこっちはぼくのだ!』
あたしの小さい手に、ふたりの小さな手がつながれる。
左側に、隼人。
右側に、凌空。
それはいつの間にか当たり前になって。
その定位置は、小学生になっても中学生になっても変わらなかった。
ふたりは
たいせつな、たいせつな、幼なじみ。
どちらも比べられないくらい
たいせつな、たいせつな、幼なじみ。
……そう思っていたのは、あたしだけだったのかな。
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