編集者序文
彼の大陸【ラウ=ロドム】に存在する地図は信用できない。
いや、信用できない。ではなく、誰もが信用するには情報不足だ。
なぜなら、現存する地図の約九十九%は、作家の空想、地主の妄想、あるいは権力者が抱く理想に準じて制作されていた。地図は権力者たちが支配地域の臣民を繋ぎとめる為に用いた道具の一つであり、また、臣民にとって地図は触れることのできない宝物の一つであったからだ。
大昔、誰かがその地図を権力者の為に描いたことは間違いない。しかし、誰もがその地図と同じものを真似て描くことしか出来なかった。誰も、それが大昔に生きた空想家の絵画だとは、思いもしなかったのだから。
だから、彼らは完成度の高い地図を見ても、その価値を見出せない。空を飛ぶ鳥の目から見た自分たちの形を、せいぜい、出来の悪い絵画。と、笑う程度だ。彼らは自分たちが知る世界の形を正しいと信じ、理解の及ばない世界を間違いと恐れた。
彼の大陸が信用できる地図と共にその姿を表した時、すでに大陸に名を付けた親はいなかった。
以下は地図と共に添えられていた詩、その全文になる。
ヒトにその姿を知られていない【ラウ=ロドム】。お前はまだ生まれていない。どうか祝福を。
ヒトの名付け親を失った憐れな【ラウ=ロドム】。お前はこれから生きていく。どうか慈愛を。
ヒトと共に変わり続ける賢い【ラウ=ロドム】。お前も朝日に向かって歌う、旅人たちの歌を聞くだろう。
この物語は、世界地図を作ろうとしたヒトたちと、彼らが辿った冒険の記憶だ。
最後に。私――白芯木波音与は彼らの冒険を日本語訳し、物語に編纂した者として、彼の大陸で篤く信仰されている神話の一文を用いて賛辞を贈りたい。
『ヒトは多様性を尊びながら、世界は唯一無二であると嘯く。私はそれが恐ろしい』
エインの神話第十三章一節より 聖なる獣 リリウルの言葉
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