将来会議/箭嶋仁武
「……ってのが、実際のところやね」
「なるほど、これは良いぶっちゃけ記事」
夜、寮の談話室にて。オリエンテーションで教わった学科選びについて先輩の意見を聞きたいと、深結は義芭を訪ねてきたのだ。ちなみに仁武は義芭から勉強を教わっている途中だった、これは実家からの習慣。
「これ書いたの、仁先輩のお友達なんですよね?」
「ああ、援術科の
「ツヅキさん……ああ、いましたね。
そういえば深結も嶺上から避難してきた児童だった。家族に何かあったかもしれない、不用意に話題にしないよう覚えておかねば。
「綴希くん、ざっくり理解するには最適な紹介だな~ってあたしも思うよ。一通り読んどくのオススメ」
話の合う異性、義芭には割とレアな存在だ。
「空き時間にちょこっと読むにもいい分量ですよね」
「ああ、文章苦手な俺でも読めるくらいだし」
「そのぶん専門性とかは結構捨ててるんだけど、どこを捨ててるかを明示してるから推せるんだよね……それでミユミユ、どの学科が合いそう?」
この学校では、二年進級時に学科の振り分けが行われる。しかし希望自体は入試の段階から聞かれており、早くから意志を固めるのが良いとされている。
「援術と衛生の二択かな……魔刃と射魔と協獣は適性的に無理だし、教育いけるほど学力もなさそうなので」
一般的な女子生徒のチョイス、といえるだろう。衛生は人によっては苦手意識が強そうだが。仁武からは苦手要素の筆頭を聞いてみる。
「深結さん、血とか傷とかは平気?」
「割と平気ですよ、解剖で具合悪くなったりもしないですし」
「それにスタミナあるもんね、向いてると思うよ。不安かもだけど」
衛生魔技士の不安、というフレーズに嫌な予感がしたが。
「仁先輩には言ってなかったですね。うちの両親は嶺上魔警隊の衛生魔技士だったんですが、複災の救助活動中に大怪我しちゃって。今は二人とも新都の介護施設で面倒見てもらってるんです」
殉職でなかっただけ安心、ではあるけれど。
「そうか。大変だったね、ご両親も深結さんも」
「私はそんなに。親元を離れている嶺上出身者は大勢いますし、頑張ればまた会えますし」
あの災害以降、嶺上県は大人だけが暮らす地域になっている。
日常生活を取り戻すのが難しいとはいえ、
家族が一緒に暮らせない方針への反対は今でも根強い。ただ、あの災害で多くの児童や高齢者が犠牲になったことは、和国じゅうのトラウマになっている。インフラの整わない地域に身体的弱者を住まわせることへの忌避感が、それだけ強かったのだ。
「けどミユミユ、怖いって気持ちを無視するのも危ないからね」
義芭が心配そうに言うと、深結は笑って答える。
「うん、怖くないわけじゃないよ。ただ、衛生魔技士の中でもポジションはいっぱいあるって聞いてるし、直接人の役に立つ仕事は好きそうだし……繋援魔技士だって前線に立つことはあるんだから、そこで悩まなくてもいいかなって」
「俺は最初から魔刃士しか考えてないけど……援術科は覚える魔術が多くて大変だってのは結構聞くぞ」
「義芭ちゃん、そうなの?」
「深結さん、そいつに聞いちゃダメだ」
「むしろ色んな魔術覚えるの楽しいんだけどねえ……あと援術は座学も結構多いかな、色んな現場に行くことを想定して、基礎になる知識を浅く広く。衛生は医学まわりを重点的に」
「そっかあ……私、座学の好き嫌い多いからなあ」
「後ミユミユは自分で体動かしてる方が好きそう、繋霊で
「確かになあ、じゃあ衛生が本命かなあ」
仁輔は魔刃科しか無理だろう、とは入試の段階から言われていた。学科選びに悩むという感覚が、そもそも自分にはない。
一方、才能があるぶん悩む生徒もいる。
「そうだ義芭ちゃん、さっきのブログ読んで気になったんだけど」
「ん、なに?」
「どうして教育科じゃなくて援術科にしたの? 義芭ちゃんの最終的な目標って研究者だったし、身体動かすよりも頭使う方が専門でしょ?」
深結の疑問は尤もである。そもそも教育科は「成績さえよければ入りたい」と人気の集まる学科であり、義芭であれば問題なく入れたはずだ。
「教育も面白そうだから考えたんだけどね、色んな人を相手に先生っぽいムーブするのは向かないってのが一つ」
「癖は強いもんね~義芭ちゃん」
「そ。後はやっぱり、現場に立つのがしっくり来たんだよ。仁が魔刃士であたしが繋援士で、壊獣と戦いながら新しい戦術を生み出して。んで年取ったらキャリアチェンジして、元魔警隊としての知見を発信していくってのが今のビジョンだね」
「……つまりそれが、義芭ちゃんの研究スタイル?」
「そういうこと。もうちょっと世界が平和だったら、純粋
「精霊がそもそも何かって学問だっけ?」
「そう。ミユミユも聞いたことあるでしょ、
仁武は義芭からよく聞いていた。どうも、別世界に存在する(した?)人間(的な種族)の霊魂(的なモノ)が、巡り巡ってこの世界の宿精霊になっているのだという。仁武には実感が薄いが、人によっては感覚的に認知されているらしい。
「うん、話だけなら。昔はオカルト扱いだったけど、最近は真面目に研究されてるんだよね?」
「そうそう。あたしらみたいな人間っぽい種族の霊魂が絡んでるのではってところまで解明されてるの、めっちゃ面白いんだけどね~。今は目先のリスクを何とかしなきゃだし」
魔獣や外敵や災害の不安が少なければ、そもそも魔法の才能などなければ――という葛藤は、魔術高専生には付き物だ。
「じゃあ義芭ちゃんと仁先輩、デュアル採用を目指してってことですか?」
深結が口にしたのは、学生時代から活躍した
「ああ。俺は俺、義芭は義芭で就職するルートも想定はしてるけどな」
「お互いのやりたいことが一番叶うの、そのルートなんだよね」
「やりたいこと……というと? そもそも義芭ちゃんがやろうとしてる研究ってどんなの?」
「まず俺は、一人前の魔刃士になって地元で壊獣討伐をやること」
仁武の方は非常にシンプル、一方の義芭は。
「あたしはというと、繋援の発展による魔術適性非依存的な魔刃戦術の確立……つまり、魔術が使えなくても魔刃士やれるって人が増えるように、繋援の技術を見直しましょうってテーマ」
「それは……仁先輩みたいに、魔術が得意じゃない人でもってことですか?」
「そうだな、後は……」
仁武は言いかけて、義芭に視線で問いかける。この先も言うのか、と。
「そもそも魔術適性がない人でも魔刃を使えるってのが最終目標かな」
言い切った義芭に、深結は驚きつつも考えを巡らせ。
「……あの、私の理解が合ってるか不安なんですけど」
「いいよ、言って」
「魔刃は一般向けの
魔刃、
よって深結が戸惑うのも当たり前ではあるのだが。
「今のところそうだね。けど魔動器と魔媒器の根本的な原理は同じだし、連繋式魔術の発展も結構盛んなんだ」
この義芭の説明で深結も理解したらしい。
「MAXダンスで一般人が繋援されることで運動魔術を使える……のと同じような発想で、魔刃も使えるかもってこと?」
「そうそう。難易度が違うだけで、似たようなことはもうできてるんだ」
「そっか……けどどうして?」
義芭の本心はそれなりに重い。ただ、今日彼女が口にしたのは。
「そりゃ、社会に必要な仕事があったとして、できる人は増えた方がいいでしょ?」
パーソナルな苦悩ではない、一般論に基づく回答だった。
「魔術使いじゃなきゃできない仕事ってのが多すぎるからさ。魔術使えないマッチョになら魔刃士もできるよってルートくらいは作りたいんだよね」
「ああ、マッチョなのは大事なんだ?」
「これまでの魔刃戦術は、魔刃士の戦技運動を繋援で補助することが多かったからさ。魔刃士の魔術発動に補助を集中させるぶん、身体動かすのは自前の筋肉で頑張ってね~って話になりそうなの」
「で、そのモデルは俺の特性とも合致するんだよな。だから俺らは、この発想の正しさを証明するためにも、デュアエルで結果を残したいんだよ」
魔術だけなら高専最弱、という仁武の風評。
それすら逆手に取り、ビジョンを知らしめるチャンスなのだ。
「……もし、義芭ちゃんの目標が叶ったら」
ゆっくりと、その意味を自らに確かめるように、深結は訊ねる。
「魔術使いだから命懸けで人を助けなきゃ、みたいに思わなくてもよくなるかな?」
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