偽りの霊能者(4ー1)

 当然ながらこのマンションの外に出るということは事前に伝えていなかったので、竜泉は織田に嫌味を言われることになった。

 しかし咄嗟に出たアイディアではあってもこのマンションを事故物件として世間に喧伝しなくて済むということに竜泉は安堵していた。

 自分がここの住人だったとして、オカルト番組に食い物にされた挙句、物件価値を暴落させられては堪らないだろう。

 竜泉自身は幽霊も怪奇現象も信じてはいないが、これまで番組の内外で幽霊を信じる人間と多く接してきた。このマンションにそういう人が住んでいないとも限らない。



 竜泉は先にロケバスで待っている織田のところへ向かう。

 周囲に気を遣われているのか、彼女が人払いをしたのか、ロケバスの中は竜泉と織田の二人きりだった。


「あの二人のインチキを見破るところまではよかったけど、外に出る可能性あったなら先に言いなさいよ。勝手なことしてくれちゃって」

「悪かったよ。でも、あんな風にやっちゃった以上はもう外でやるしかないだろ。あの部屋で今度はカエルのお祓いでもやった方がよかったか?」

「冗談じゃない。外行く方が百倍マシよ。撮影許可なんて後からでもなんとでもなるんだから」

「それなら良かった」

「でも、プランはあるの?」

「あるか、そんなもん」


 先のことまで考えてはいなかった。土地の歴史を調べていたのは、自分が使える可能性があると思っていたからだ。

 ライバルの似非霊能者の揚げ足取りに使う想定ではなかった。


「準備できましたー」


 ADが呼びに来る。


「ちょっと待って。こっちはまだ」

「あ、はい」


 ADは怒られたというわけではないのに、まるで叱られた子犬のように去っていった。


「ここでダラダラ話してても埒が明かねぇよ。行こう」

「どうすんのよ? ちょっと時間取って構成作家と電話で打ち合わせする?」

「いらねぇよ。なんとかするよ」

「なんとかって何?」

「歩きながら、こっちから霊気だとか邪気だとか感じるとか言って、人が住んでないそれっぽいスポット見つけたらストーリーでっち上げて、三人でお祓いパフォーマンスやって終わり。どうだ?」

「上手くいくの?」

「これまでだって上手くやってきただろ」

「確かにね。でも、あとの二人はあんたの金魚のフンで頼りにならないし、一人でなんとかしなきゃいけないのよ?」

「別に作家もこれまで大して役に立ってねーよ。殆どアドリブで乗り切らなきゃいけない番組構成だったじゃねーか。あんなペライチの台本あってもなくても一緒だよ」


 織田が今回の特番のためにどういうストーリーを思い描いていたのか竜泉にはわからない。ひょっとしたら、あのマンションに何かを仕込んでいたのかもしれない。

 しかし、竜泉は世の中なるようにしかならないと考えている。今回もこのような流れになってしまったのだ。

 似非霊能者たちを排除してもなお、この撮影前から感じている嫌な予感は続いているが、この流れに身を任せる以外に選択肢はない。


「行こう、もう夕方だ。今日中に終わらなくなる」


 どうせ数日に跨ったとしても、繋げて一日の出来事のように見せかけるだけなのだが、竜泉自身が面倒くさいと思っていた。


「わかった」


 後ろ頭に織田の不安を感じながら、竜泉はロケバスの外に出た。


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