新人編集者山城と心霊マンション(2ー2)
外に出ると少し息苦しさを感じる。雨あがりで湿度が上がっているのだ。
山城は自身の毛髪の曲線の角度が強くなっていくのを感じる。
「髪の毛やばいな」
「湿気で曲がるってことですか? 山城さん、もとがパーマだからわからないですよ。それ天然ですか?」
「いや、人工。パーマかけてる」
「じゃあ、いいじゃないですか」
「違うんだよなー。理想の曲線ってのがあんの」
小野寺は訝し気に首を傾げた。
山城は髪型にはこだわりがあるのだが、一年の間で数日しか最高だと思える日はない。今日は最悪に近い状態にあるが、一旦気にしないことにした。
「緑ヶ沼神社に行きましょう」
「昨日、加瀬さんに聞いたところだ」
「はい、事前に調べたところによると祀っているのかどうかはわからないですが、河童をマスコットキャラクターにしているようです」
「へぇ、そうなんだ」
「あと宮司さんにお話しをしてもらえるようにアポもとってあります。小さい神社なので、直接対応していただけるそうですよ。今日は特に御祈祷の予約なんかも入ってないということで」
「おいおい、優秀過ぎかよ」
「下っ端として当然のことをしたまでですよ」
山城はよく仕事でも取材をするのだが、事前にアポイントを取るということを失念していた。
小野寺が学生バイトとしては優秀過ぎるのも問題だが、山城自身が優秀ではなさすぎるのも頭が痛い問題だ。
「アポの時間まで余裕があるので、一軒家に聞き込みもしながら行きましょう」
「そうだね。でもそこのマンションに引っ越してきましたって挨拶に行くの不自然じゃないか? そんな奴いないだろ」
「あぁ、それなら大丈夫です」
そう言って、小野寺は建設中の一軒家を指さす。
「あそこに引っ越してくるってことにしましょう。工事の騒音でご迷惑をおかけしますとか言えばいいんです」
「嘘じゃん」
「それがバレる頃には山城さんはもうあのマンションから退去しているので大丈夫です」
――大丈夫かぁ? それはいいのか? でも、粗品渡すしなぁ。
小野寺は先回りが行き過ぎていて、遥か先まで行ってしまうことがある。
早歩きで半ば出来上がっている新築の前まで行った小野寺が引き返してくる。
「まだ表札はついていなかったので、名前は適当で大丈夫そうです」
偽名を使うということに抵抗はあったが、山城は他に何か良い案があるわけでもないので、大人しく彼女に従うことにする。
「じゃあ、行きましょう」
「わかった」
数件、小野寺が見繕った一軒家に粗品を配り、ちょっとした雑談を交わしながら神社へと二人は向かっていく。
「これといって良い話は聞けないなぁ」
「いいんですよ、別に。私たちみたいに変な出版社で働いてる人間はともかく、普通の人たちは日常生活の中でお化けとか都市伝説のことなんて考えたりしませんからね」
「そりゃそうだ」
「もともとただの時間潰しでしたからね。今日のメインイベントはこれからですよ。それにこうやって顔を売っておけば、何か思い出した人が良い情報をくれるかもしれません」
「なるほどね。そういえば、どういう基準で話聞く家選んでたの? なんか、ここはいいとかここはダメとか言ってたじゃん」
「私なりに意味があって訪問先を決めてましたが、現時点では正解か不正解かなんともいえないです」
「どの家でもロクに成果はなかったんだから、不正解なんじゃないの?」
「まだわからないですよ。ま、いずれ教えます。今は言っても意味ないので」
「そっかー。正解発表される前に当ててやりたいな」
山城がそう言うと小野寺は切れ長の目を少しだけ見開いた。
「そういう姿勢は良いですね。自分で考えようとする人はかっこいい人だって思ってます、私」
彼女の淡々とした口調は本気とも冗談とも判断つきかねたが、山城は気恥ずかしくなった。
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